第44話 貴族の矜持?2

 魔物討伐部隊の船に救助されて三日目をむかえた。

 昨日は一日、この船がどのルートで陸を目指すかを決める会議が行われていたらしい。

 簡単に言えばいつ何処に魔物が出現するかなんて誰にもわからないんだからとっとと手近な島へ私達を引き渡したほうがいい。というグループと、別に救助した人を何時までに陸へ連れて行かなきゃいけないという決まりはないんだから、ここから魔物が多く現れると言われる海域へ向かいそこを通ってエルドレッド国の島へ送り届ければ良いというグループと意見が二分されていたようだ。


 ちなみにここから一番近い陸はこの船の自国フィランダー国の島だそうだ。フィランダー国とエルドレッド国では素材の取り引き価格が違うらしい。国力が高く、魔導具の利用率が高いエルドレッド国の方が高く買い取ってもらえるらしく、自国での気軽で安価な取り引きよりも手続きが面倒でも他国へということもあるらしい。その方が救助にかかった費用も直ぐにもらえるのだろう。


 私的にはエルドレッド国の島へ行く方がその後の手続きが早そうだが、この船に長く滞在することになるため貴族達の別料金がかさみゴリ押しが酷くなる予感がして複雑な心境だ。

 

 昨日夕方頃、予想通りお貴族達から翌日に部屋に来るよう呼び出しがかかった。

 そして今日も朝からキラキラ☆ニコラスはウチのリビングに居て、当たり前のように朝食を一緒に取っている。

 

「取り敢えず作戦通り体調不良って伝えるけど、良いよねぇ?」

 

 朝っぱらから目に優しくないニコラスの笑顔。

 呼び出しはカイと私の両方だったので私が体調不良役で仮の保護者であるカイは看病役。恐ろしい魔物に襲われたショックで部屋から出られず高熱が出ているから目が離せないという設定にした。

 

「今日はこれで逃れたとして明日はどうするの?」


 サイラ達が飲み物を三人に給仕してくれ優雅な朝食のはずなのに頭の痛い話をしなければいけない。


「その前に、貴族にどう対応するかにも関わるから一応この船の向かう先がエルドレッド国のイヴァ島に決まった事を言っておくね」


 明け方、魔物討伐部隊の船はやっと出航したのでどちらかに決定したのだろうとは思っていたが、遠い方か。

 隣のカイから小さくため息が聞こえた。私も同時にため息をついてしまいお互いに見合ってしまう。心の中は長くなるなぁという気持ちだ。


「随分仲が良いねぇ」


 ニコラスが羨ましそうに見てくるけど決して仲が良い訳じゃないから。同じ厄災を受ける身同士の素直な感情だからね。


「このまま何事もなくイヴァ島に向かえば何日くらいかかる?」

「最短で五日かな、上手く魔物に当たればもう二日くらいのびる」


 高速艇と違い魔物討伐部隊の船はそこまで速度を出せないらしく、しかも魔物を探しつつ進むので時間がかかるようだ。

 答えを聞いたカイは俯きかなり悩んでいたようだが何かを決心したように顔を上げた。


「ニコラス、念の為だが……船長ダキラに会えるか?」

「良いけど……良いのか?」


 カイがこの船の船長の名を知っている事にも驚いたけど、ニコラスのちょっと心配そうな顔にも驚いた。

 基本、大海をゆく船の船長といえば気の荒い人物が多いと聞く。メルチェーデ号のモッテン船長だってかなり顔も怖いし口も悪い。まぁ気を許してもらえて人柄を知っていれば気にならないけど。

 だから回収船に乗り込んでくるような平民が気軽に他の国の船の船長に会えるものでは無いと思う。

 けれどカイはニコラスをはじめこの船の船長にも面識があるようだ。そうなら貴族を避ける為に手助けを頼めるのかも知れない。


 朝食を終えるとカイは早速船長に会いに行くようだ。


「いいか、絶対にこの部屋から出るなよ」

「わかってる」

「誰かが来ても顔を会わさないようにお前は個室へ行ってサイラかミラに対応してもらえ」

「わかったから、早く行きなさいよ」


 このしつこい感じはリュディガーで経験済みだけどやっぱりウザい。


 やっとカイが部屋を出ていきホッとしたが今度は暇になってくる。

 高速艇では古代文字の解読に取り掛かったけれど、ここにはサイラ達もいるしノートも無い。暇過ぎて窓から外を見ても見慣れた海が広がるばかりで何の変哲もない。

 天候は良好で、魔物討伐部隊の船は快調に進んでいる。速度的には回収船の普段の航行より多少は速い。回収船は遺物を回収しながらの移動が基本だから少し遅めだしな。


 ぼやっと外を眺めていたら朝食の食器を片付ける為に部屋の外へ行ってくれたミラが変な顔をして帰ってきた。


「どうしたのミラ?」


 気づいたサイラが直ぐに声をかけた。ミラはサイラと目を合わせたが私に向き直り報告してくれた。


「それが、少し先の通路の所にイーロさんがいたんです」


 イーロというのは高速艇の船員だ。最初に私とカイが高速艇に乗った時に案内をしてくれたのが彼だった。


「助かってたんだ」

「そのようです。でも、私の顔を見ると一瞬気まずそうな顔をした気がして」


 そこは同じ船で働いていた人がお互いに無事を喜ぶとこなんじゃないだろうか?変だな。


「何か話したの?」


 サイラも気になったらしく不審な顔だ。


「気まずそうなのは一瞬で、無事で良かったって、皆と一緒に居なかったから助からなかったのかと思ってたって」

「それでミラはなんて返したの?」


 サイラが少し語気を強めてミラに尋ねる。私の事を心配しての行動だと思うけど結構顔が怖い。


「エメラルド様のお名前は出しちゃいけないと思って、運良く貴族様の救命艇に乗ることが出来たとだけ話してその場を離れたわ」

「そう、上手く話したわね。それなら嘘じゃないから今後バレても気まずく無いし、向こうが勝手にそのまま貴族の世話をしていると誤解してくれるかもね」

「でしょう?イーロさんも無理にこちらの区域には入って来れないみたいだったわ」


 可愛いメイドさんの裏の顔を垣間見た気がする。

 どうやら助け出された高速艇の船員達は行動範囲が限られているようだ。

 サイラはそこからミラと二人で何やら作戦会議を始めた。


「これからは私達もあまり目立たない様に行動しなければいけないわね」

「助けられた皆は船首側の広い場所に纏めて入れられてるみたいよね?だったらそこに近付かない方がいいわね」

「でもそれならどうしてイーロさんはそこから離れているこちら側の区域にいたのかしら?」

「まさか何か探ってるとか?」

「何かって……まさかエメラルド様の事!?」


 随分盛り上がっているようだが、ただ単に暇だったからブラついていただけの可能性が高くない?


 私が楽天的な事を考えていると急にノックがした。


「え!?」


 いやまぁ、ノックはいつでも急にするものだけど、三人で顔を見合わせピリッとする。私は二人に黙って頷くと静かに個室へ入りドアを細く開けて様子を窺った。

 二人はもう一度ノックがした後、慎重に返事をした。


「はい、どちら様でしょうか?」


 鍵がかかったドアを開けずに応対したが返答は無い。だけど通路には誰かが居る気配がするらしく、そっと聞き耳を立てるサイラとミラは黙って頷き合い用心してドアは開けない。するとまたノックがした。どうする?という風に眉を寄せるミラにサイラは首を横に振る。


「どちら様でしょうか?お答え頂けなければドアを開けることは出来ません」


 サイラの言葉の後に少し間が空き、やっと返答があった。


「ここを開けろ。私はエルドレッド国、オスカル・ヴィアーニ。男爵家の者だ」

「私はノベルト・カラッチ。男爵家の者だ」


 やっべぇ、貴族達が直で乗り込んできたよ。



 

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