第22話 遺物回収部隊2

 理由がわからないままピッポに部屋に押し戻されムッとしてしまう。

 

「なんなの?」

「回収部隊が来たんだ」

「そんなのわかってる」

「だったら流れもわかるだろ?」

「そりゃね。遺物を確認して発掘した人を呼び出して連れて行くんでしょ?」

「そう簡単にいうなよぉ。お前はリュディガーと一緒に行きたいんだろ?」


 ピッポがテーブルに向かうと呆れているのかダラけた格好で座った。


「回収部隊の方から来ちまったら船がそれほど大きくないから当事者と家族しか同行出来ないだろ?」


 えっ、そうなの?


 ピッポがため息をつく。


「その顔は知らなかったみたいだな。こっちから陸に行ってれば船長の遣いだなんだと言い訳出来ただろうけど、向こうから来られちまえば厄介なんだよ。このままじゃリュディガーは一緒にいけない」

「はぁ?なんでよ、私達は……」


 家族でしょ、と言いかけてはたと気づく。


『俺に妹はいない』


 リュディガーが前に言っていた言葉は捻くれてるとか血の繋がりがないからとかでは無く、書類上私はピッポと同じ拾われっ子で身内がいない事になっているということか。


 そう気づかされギュッと胸が苦しくなった。


 口ではなんだかんだ言っても私は正式にオジジに引き取られていると思っていたのにそうじゃないんだ。


 少なからぬショックを受けているとピッポが私をイスに座らせた。目眩のようなふらつきを感じテーブルに手をついて体を支える。その様子を見たピッポがグラスに水を注ぎ私の手に握らせる。


「先ずはこれを飲んで深呼吸しろ」


 なかば強引にグラスを口につけられされるがままにゴクゴク飲み干す。


「はぁ~」


 コトンと音を立ててグラスを置くと口元を手の甲で拭う。


「大丈夫か?そう気にするな。たかが紙切れだ」

「今はその紙切れが重要なんでしょ?」


 ピッポは私の肩に手を置き、真っ直ぐに見つめてくる。


「想定外の事が起きたってなんとかなる、わかるな?」


 力強く冷静に言葉をかけてくれるピッポを見て目を閉じ深呼吸する。


「う、うん。わかる」


 ちょっと、いやかなり動揺してしまったが何とか気持ちを落ち着け、唇に力を込めて震えないようにする。


 ピッポも私も親に捨てられるという想定外を乗り越えてここにいるんだ。紙切れ一枚くらいなんだよ。

 それにここでうっかり涙なんか零したら冷静に対処しろって言ってくれてるピッポに負けた気がするのが嫌だ。


「おーい、開けてくれ」


 ドアがノックされカイの声がする。食事を取ってきてくれたのだろう。

 私の様子を確認し、ピッポがドアへ向かうとカイを部屋へ入れた。

 テーブルに三人分の食事を並べカイの手前、何事も無かったようにそれぞれ食べ始める。


「さっきチラッと見たんだけど、回収部隊の奴等って人相悪いのな」


 カイが食事をしながら嫌そうに鼻にシワを寄せている。

 特級を発掘したカイも今回一緒に回収部隊と陸へ行かなければならない。どうせなら快適な船旅をしたいと思っていたのが当てが外れたと感じたのだろう。


「部隊の奴等は下っ端だけど貴族だからな。陸じゃ偉そうに出来ないぶん俺達みたいなのを相手に粋がってんだろ?」


 ピッポも気に食わない様子で文句を言う。私と違いピッポは船長の傍で仕事をする事もあるから回収部隊と関わる機会も多い。きっとこれまで何度か嫌な目にあったのだろう。

 ただの乗員はそんな外の奴等と関わることは殆ど無い。勿論回収部隊に所属していない普通の貴族が船に来ることは皆無に等しいし、来たとしても相手をするのは船長だ。


「カイは陸で生活してる時に貴族と会わなかったの?」


 同じ陸に居ればすれ違う事だってあるんじゃないかと尋ねてみた。


「普通の庶民は貴族と関わるのは出来るだけ避けるさ。難癖つけられて酷い目に合いたくないからな。特に下位貴族は厄介だ」

「難癖って?」

「わかりやすい例を上げれば商人だな。手広くやってれば貴族と関わる機会がどうしても増える。店に来てやれ品物が気に食わないとか、接客態度が悪いとか言い始める」


 カイが食べ終わりため息をついて背もたれに身を預ける。


「そんな事してどうするの?いくら貴族だからってただ嫌がられるだけじゃない」


 不思議に思っているとカイが更に嫌そうに顔を歪める。


「こっちが逆らえない事をわかっててやってるんだよ。文句を言って自分の要求を通すのさ。値段を下げさせたり自分達に優先的に品物を融通させたり。そうやって自分達がいかに誰かより優れているかを示そうとする。マヌケで傲慢な奴等だ」


 どちらかというとヘラヘラ笑っていることが印象的だったカイの憤慨する姿に驚いてしまう。


「よっぽど嫌いなんだね」

「へ?あ、いやぁ」


 私の言葉に急にカイが慌てたようにハハッと笑顔を作ったが頬が引き攣っている。そこへすかさずピッポが意地悪い突っ込みを入れる。


「なんかあったんだろ?前に家がデカい商売やってるって言ってたよな?」

「いやいやいや大した事ないさ。ちょっと見栄張って言っただけだ」

「必死に否定するとこが余計に怪しいぞ」

「ホントだって、何もない」


 二人のやり取りを見ているとさっきの不安な気持ちが少し薄まっていった。いま大事なのはリュディガーと一緒に陸へ行くってことだ。


「ピッポ、さっきの話だけど」


 話を遮るとカイがちょっとホッとした顔をする。


「オジジ達がどうするつもりか何か知ってるの?」


 このままじゃ私は一人で陸へ向かう事になる。


「まだ決まってないけど一番手っ取り早いのはリュディガーとエメラルドが結婚する事だな」

「「結婚!?」」


 私とカイが驚いて同時に立ち上がりイスが後ろへ倒れる。何となく顔を見合わせ、でもすぐにピッポに向き直る。


「結婚ってなんでよ!?」


 ピッポがニヤニヤしながら口を開く。


「夫婦なら当然一緒に行くだろ。だけどお前はまだギリギリ未成年だからこの手は使えないんだ」


 なんだかホッとしてしまう。


「脅かさないでよ、他には?」

「まぁ、エメラルドが船長の管轄なら今度は未成年ってことを盾にその関係者の代わりとしてリュディガーがついて行くってゴリ押し出来るかもな。でもその場合俺が行くのが妥当だとされる可能性がある」

「はぁ?なんでピッポ?」


 要するに同じ船長の管轄のということで身内とみなされるかも知れないらしい。


 船長の管轄であれば普通は借金持ちだ。返済が残っている限り勝手に船を降りることは出来ないが今回は特級を発掘した事で返済が可能。

 成人している大人ならさっさと返済して一人で出ていくだろうが、私はまだ未成年なので身内であるピッポを付き添わせ陸でそれなりに生活出来るかを見届けさせるというかなり強引な理由をこじつければって事らしい。


「それ通じるか?」


 話を聞いていたカイは胡散臭下な様子だ。


「まぁ、厳しいな」


 ピッポも望み薄と思っているらしい。


 って事はやはり私一人で陸へ行くのか……本当に人生って想定外な事が起きるんだよね。

 

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