第18話 お引越し
あれから船長室と同じ第二デッキにある幹部クラスの部屋へオジジとリュディガーと一緒に向かった。
ドアを開け部屋へ入って直ぐがリビングのようで右側の手前が洗面とシャワールームへ続くドア、奥側に小さいがもう一つ部屋があり寝室のようだった。リビングはこれまで三人で過ごしていた部屋よりもう少し広さがあり、カーテンで仕切って部屋の隅にオジジとリュディガーのベッドが置いてあった。
なんと寝室は私が一人で使っていいらしい。
「なんか私だけ悪いね」
そう言ってはみたが本当は急に一人部屋を与えられて落ち着かない気分だ。同じ場所とは言えドア一つ隔てた空間に独りなのだということが妙に寒々しく何だか嫌な記憶が蘇りそうだ。
んん!?なんの記憶だ?攫われた時の記憶とは少し違う気がする。もっと前の……おかしいな。記憶力には自信があるのに何かが邪魔して……
「お前も年頃の娘じゃ。これも必要なことじゃろ」
考え込みそうになった所でオジジの声がして我に返った。
「そうかな?」
ぼんやりと答えると「そうだ」とリュディガーがちょっと怒ったような声で言った。
まぁ確かにもうすぐ十六才、成人だもんね。身体つきだってそれなりに……なっているはずだ。
翌朝、ピッポが私達の分の食事も持って部屋へやって来た。
「おはようー」
「おはよう、ございます。おぉ、ここが幹部の部屋か」
どこから入り込んだのかカイも一緒についてきた。気安く入って来たがリュディガーとオジジの姿を見てちょっとビクついている。
「何故お前がいるんだ?」
リュディガーが朝から機嫌悪そうな声を出す。
「冷たい事言うなよ。どうせ一緒に仕事するんだから良いだろ?」
前の部屋とは違い五人分の食事を広げても十分なテーブルにトレーを置きながらカイが部屋を見回して言った。勿論五人分の椅子もきちんとあり全員が席につき食べ始める。
食事のトレーを見てちょっと驚いた。なんだかいつもより少し豪華な気がするな。まぁ、果物がついているだけなんだけど。まだ定期便が来て間がないから新鮮な物が残ってたのかな?
「このデッキには研究室があるんだよな?エメラルドが発掘した特級もそこで調べてるのか?」
カイが好奇心に満ち溢れたような瞳で尋ねてくる。
特級遺物は普通は関係者以外には公開しない。たまたま発掘された瞬間に見た人はいるだろうが、警備の関係上非公開であることが殆どだ。それでも噂は流れて来て、今回の遺物は箱型だ、とか、キューブのデカい塊だ、など憶測が飛び交う。
「お前に話せることはない」
「いやいや俺だって発掘チームに入ってるんだから話してもいいんじゃないか?大丈夫、口は堅いから」
リュディガーのきつい返しにもへこたれないカイが続ける。
「別にお前を信用した覚えは無い」
「とは言え人手は必要だろ?どうするんだよもしまたエメラルドが変な奴に絡まれたり攫われたりしたら?」
カイにすれば何気ない発言なんだろうけどこの場には攫われた経験者の私がいる。
一瞬緊張感が漂ったがピッポがカイの頭をペシッと叩いた。
「その為に俺がいるんだよ。何かあれば時間稼ぎにカイを囮として残して置くからしっかり役目を果たせよ」
「えぇー!俺は囮なのか!?いやこの際囮でもいいか、兎に角俺だって必要だってことだよ」
何とか雰囲気が和らぐとリュディガーももう何も言わずに食事を進めた。
ピッポは良い奴だ。
朝食後、嫌がるリュディガーを熔鉱炉の仕事へ向かわせ私達も回収場へ行く時間となった。
オジジはこのまま研究室へ行き
いつも淡々としているオジジにしては初めて見るタイプの特級に随分関心が強いようで朝から言葉少なげだった。本来の業務からは外れているようだが船長も何も言わないだろう。
回収場へ行くと私のマークした場所にまばらながら人が集まっていた。監視屋のマルコもその場にいて不法侵入が無いよう目を光らせてくれている。
「遅いぞエメラルド!」
「ごめん、リュディガーがごねて」
朝からクドクドと注意事項を垂れていた彼を少しばかり貶めてからマークした場所へ入って行き、中心部からくるりと半径三メートルの範囲を見回す。
「なんか変だな」
私が違和感を口にするとピッポも隣で頷いた。
「マルコ、誰か入ってるぞ」
回収場の責任者でもあるマルコへ顔を向けると舌打ちして隣の男を顎で示す。
「朝からコイツがふざけて荒らしてやがったからペナルティでエメラルドに三万ポイント入れといた。勿論調べたが何も盗ってない」
どうやら若造が目立ちたかったのか皆が注目している現場に入って穴を掘るパフォーマンスをやらかしたらしい。フザケてる割にブレスレットは外していたらしく警報は鳴らなかった。
「何も出なかったんだから別にいいだろ!?」
おちゃらけた感じで薄笑いを浮かべる男。ペナルティの三万ポイントは結構な痛手だと思うが何故か余裕があるように見える。
「そんな言い訳が通用すると思ってんのかお前は。悪質だな、これは重大な違反だから次の定期便で送り返して陸で強制労働送りにしてやるからな」
マルコの言葉に男は震えあがった。
「えぇー!そんな、話が違う。俺はちょっとふざけただけで……」
私は涙目の男を白けた気持ちで見ていた。
「いいよマルコ。今回は見逃すから罰金と甲板掃除で許してやって」
時々こうやって規則違反したら酷い目に合わすぞって見せしめることがある。その片棒を担がされた面倒くさい気持ちはあるけれど、ちょうどピッポが抜けて人手が足りないであろう甲板掃除へ一人送り込めたから良しとするか。後で船長に何か強請ろうっと。
男はその後もブツブツ文句を言いながら連れて行かれた。マルコは集まって来ていた連中を追い払って自分の仕事をするよう大きな声で叫んでいた。
「じゃあカイはそこを昨日よりもっと深くやってくれ。俺はこっちやるから」
ピッポが私達が昨日深く掘っていた続きからするようにして私にはまださほど手をつけていない所を掘るように割り振ってくれた。
昨日私が少し焦っていた事を気にしてくれていたのかも知れない。三メートル範囲内だから大きな違いはないのかもしれないが気持ちの問題だよね。
お陰で気分良く最初のクワを一振するとあっさり深く食い込みいきなりガキっと何か手応えがあった。クワで周りをより分けると石っぽい素材の人工的な匂いのする角ばった物が顔を出す。
まさかもう出たの?
膝を付けて両手で周りの砂利やら貝やらを取り除くと平たい長方形の板が出て来た。両手を広げた位の長さで幅は十センチ厚みはニセンチ程。広い一面の真ん中辺りが少し窪んでいる。何かを置くための物か?
「あぁ、また発見してる!?俺が見つけたかったぁ〜」
いつの間にかカイが隣に来て覗き込んで言った。
「馬鹿、声を抑えろ」
ピッポも来ると直ぐにカイを引っ張って元の位置に戻した。そして私を振り返り頷く。私も頷き返すと回収箱にそれを入れて素早く蓋を閉め、その後も昼まで発掘を続けてキューブを二個発掘し休憩に入った。
きっちりとマークし監視屋のマルコにも声をかけて部屋へ行こうといつもの通路の突き当りの梯子のような階段へ向かおうとしてピッポに腕を掴まれた。
「こらこら、もうそっちじゃなくてこっちだろ?」
うっかり第四デッキへ行こうとしていた。長年そこで暮らしていたんだから仕方ないよね。
「そうだった、ちょっと待って。ってことは食事も?」
「そりゃ幹部用だから多少マシになる。今朝だって果物がついてたろ?」
「あれって時々ある船長気まぐれとかじゃなかったんだ」
急に昼食が楽しみになった。
「んん?っていうか、朝食はあなた達も同じ物食べてなかった?」
違和感に気づき二人の顔を見た。
「そりゃ運んでやったんだから駄賃みたいなもんだろ?」
二人していい顔でニヤつくんじゃないよ。差額の支払いはこっち払いなんだから。
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