第17話 閑話 見つけた女の子
エメラルドは回収場で発見された赤子だった。
その日、俺が振るったクワがガキっと良い音を響かせ遺物の発見を知らせた。
凡そ長さ二メートル、巾
「リュディガー、やったな。初めて発掘して大物遺物とは大した者じゃ」
既に亡くなっていた母に続き父を病で亡くし、母方の祖父であるオジジに引き取られ回収船に乗って三ヶ月が過ぎた頃だった。
いつまでもウジウジしていては如何とオジジが発掘へ連れ出してくれたのだ。しかも特別に時間外に。
「これって凄い事なの?」
オジジと共にクワを握り手解きを受けながら掘り起こした遺物。周りには俺達以外誰もいない中、そっと触った冷たい感触の大物遺物にどれ程価値があるものなのか検討もつかなかった。
「恐らくな。鑑定するまではわからんが、これは全部お前の物だ。遺物は掘り起こした者に全ての権利がある」
その後、発見した場所をマークし遺物はオジジの研究室へ運ばれて行った。鑑定はオジジに任せその後は船の古株であるマルコと一緒に皆と同じ様に時間内に発掘を進め幾らかのキューブも見つけた。
数日後、オジジから遺物の鑑定結果が出そうだと研究室へ連れて行かれた。そこで船長モッテンとマルコの立ち会いのもと鑑定結果をオジジから聞いた。
「これは特級で間違いなく。権利はリュディガーの物じゃ」
「了承した」
モッテンが恭しく頷く。マルコも無言で頷きこれで正式に特級が俺の物だと確定したようだ。
「リュディガー、これは何か箱の様な物で鑑定の結果、開く事がわかった。最後の仕上げに一緒に開こうと思ってな」
オジジは俺の手を取り遺物の側に連れて行くと真ん中辺りある窪みを指差した。
「恐らくここに魔晶石を差し込み魔力を込めれば開くはずだ」
これまでの経験からかオジジが既に俺が発掘したキューブで出来た細長い魔晶石を作り俺に渡して来た。
「これを作ったキューブもお前が発掘したものだからお前が使っても問題無い」
キューブ自体にも価値があるが売るか使うかは発掘した者が決める権利がある。
俺は黙って頷き受け取ると、長細い魔晶石が掌に転がった。四つのキューブから出来ている魔晶石は端っこが赤と青で中二つは黄色だ。
「赤い方から押し込め」
特級にある窪みは鍵穴のように小さく奥行きがあるようだ。
形を合わせるように少し向きを変え、薬品で磨かれ赤い艶を帯びた魔晶石を押し込む。
スィっと引き込まれるように音もなく吸い込まれ、いつも魔導具を使うようにそこへ両手をかざし魔力を込めた。
「少し下がるんじゃ」
オジジに促され一歩下がると魔晶石を差し込んだ辺りから遺物の表面に沿って四方へ光の線が走った。
「うわっ!」
驚いて更に一歩下がるとオジジが背中を支えてくれた。
「大丈夫じゃ、見ておれ」
オジジの言葉に従いその場に留まると光の線はやがて表面を覆うほど幾つも現れ眩い光で遺物を輝かせて行く。
「ぬぉっ、ゼバルド!これは欠けとらんのではないか!?」
モッテンがオジジの名を叫んで興奮している。
「おいおい大丈夫かよ?爆発するんじゃないだろうな?」
マルコがビビって密かにモッテンを盾にするようにの後ろに下がった。
オジジも反射的に俺を庇うように前に立ったが俺は遺物から目を離せずその体の横から顔を出して食い入るように見続けた。
光の線はやがて特級の表面を隈なく覆うと突然明るさを弱め、今度はぼんやりとした光に包まれている。だがそこから全く動きのない遺物にマルコがぼそっと呟く。
「壊れているのか?」
部屋の中に嫌な雰囲気が漂う。
「いや、あれだけ反応があったんじゃ。壊れてないはずじゃ」
オジジが慎重に遺物の表面を調べ始めた。
「確かにあんなに光ったのは初めて見たのう。しかも表面を欠ける事無く完璧に覆うとは……」
これまでも同じ様な遺物発掘はあったらしいがどれもコレに比べれば中途半端な反応しか見られなかったらしい。
「だけど全然開かんぞ。やっぱり壊れてるんじゃないか?中身も大した事ないかもしれんぞ。期待はずれか?」
「いや箱自体にも価値があるからそこは大丈夫だろう」
モッテンとマルコが言い合う中オジジが遺物を調べ続けていた。
俺はさっきの衝撃にまだ気持ちが持っていかれていてぼうっとその様子を見ていた。
ふぇ〜
「え?オジジ何か言ったか?」
モッテンとマルコがごちゃごちゃと言い合う声に紛れて消え入るような小さな声がした気がする。
「何も聞こえんが?」
俺の発言に一瞬皆が黙った。
「…………なんだ?何も聞こえんぞ。随分怖がりだな、そんなので船でやっていけるのか?」
モッテンが俺がさっきの光にビビって聞こえもしない何かを聞いたのだろうと小馬鹿にしてくる。
「でもさっき小さく……」
ふぇ、ふぇ……
今度は確かにハッキリと聞こえた。
「この中からじゃ!!」
オジジにも聞こえたのか慌てて遺物に耳をつけた。
「静かにしろっ!」
モッテンが一際でかい声を出しそれを聞いたオジジが舌打ちした。
「黙れモッテン」
ふわっ、ふぇ……
「やっぱり聞こえる!赤ちゃんの声だ!」
俺の言葉に皆が遺物に取り付いた。
「早く開けろ!」
「さっきから開かねぇって言ってんだろ!?」
「やかましい!いいから慎重に何かを探せ!鍵穴でもスイッチでもいい!待てよ、魔力を込めればいいのかもしれん。リュディガー!やれ!」
突然の名指しに驚いたがそもそも俺の遺物だし、最初に魔力を込めたのが俺だから同じ魔力の方が良いだろうという事らしい。
「さっきの場所に限らずその周辺にも手を触れ魔導具を動かすときと同じ感じで魔力を込めるのじゃ」
オジジが俺に寄り添い場所を示していく。
「弱い力で、短めに、位置も横に少しずつズレていけ」
魔晶石を入れた場所から左に移動しながら同じ高さの位置に両手をかざし魔力を込めては足を一歩横へ動かす。
五歳の子どもにはまだ難しい魔力の操作は大人から見ればまだるっこしいものだっただろうが必死に続けた数分後。
ブーン
何かが作動する音がしたかと思うと遺物の横側に真一文字に光が入り静かにそれは開いた。
「ふぇ、ふぇ、ふぇ……」
開いた遺物から弱々しいながらも今度はハッキリとした赤子の声がした。中を覗き込むとそこに美しい柔らかな金色の髪をした小さな赤子が横たわって困ったような泣き顔でこちらを見ていた。
「…………な、馬鹿な」
絶句するオジジの後ろで驚くモッテン。
「こりゃ魔物か何かか!?」
不気味なものでも見たようなマルコの反応。
「あぁ、あぶ、ふわぁ」
俺達を不思議なものを見るように首を傾げて小さな手を差し出したのを反射的に掴んだ。
「あったかい……」
ふわりと柔らかい感触に伝わる人肌の温かみになぜだかホッとした。
そのままぎゅっと指を握られ口元へ持っていかれる。
「あぁ、いかんぞリュディガー。お前の手は汚い」
マルコが慌てて俺の手を止めた。
「さっきは魔物かなんて言ってたクセに急に良い人ぶりおって」
オジジが我に返り赤子を優しく抱き上げた。
「見せて、オジジ!」
俺はぴょんぴょん飛び上がりながら赤子を見ようとするとオジジが屈んで見せてくれた。
「可愛い、女の子だね」
「恐らくな」
「何才かな?」
「一歳に満たんだろう」
「俺のだよね?」
その一言に大人達が黙り込んだ。
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