第15話 大物遺物1
「心配しておるのだろう」
私がリュディガーの行動にプリプリしているとオジジが和やかに笑う。
「わかってるけど!今日はピッポもカイもいたのに」
「
この前の嵐が過ぎて位からリュディガーの態度がちょっと変わった。
私は何も変わっていないのに何が違うんだ?
変わった事といえばカイが関わっている事か?まぁ、いいか。それどころじゃない。
「オジジ。あの場所、あれからキューブが三個出たけど普通のだった。あぁ、でもちょっと綺麗なのよね」
リュディガーが置いていった箱から発掘したばかりのキューブを取り出して見せた。
「ふむ、確かに」
掌で転がした後ポケットからマイクロスコープを取り出すといつものように鑑定を始める。
「エメラルド。食事が済んだらモッテンの所へ行くぞ」
「えぇ?船長のとこって、用は早く済む?私は今日はシャワーの日なんだけど」
この機会を逃すとまた三日後まで入れない。区画によって時間も決められているからゆっくりしてられないし。
「まぁ、恐らくエメラルドは幹部クラスの部屋へ移動になるから大丈夫だろう」
「はぁ?幹部クラスって……もしかして今朝の遺物は……」
私が午後の発掘をしている間にオジジが鑑定を進めてくれていたのだろう。そして、その結果が……
「
「くぅ~、やったー!!」
キューブ以外の遺物は大物遺物と呼ばれその中でも特別な物を特級という。大物遺物は発見、鑑定が済み次第船長が保管する事となっている。発見者はその後の発掘権と身柄の保護のため幹部クラスの部屋へ移動。そこは今の三人で使ってる部屋よりずっと広くシャワー付きの良い部屋で、おまけに遺物を回収に来る国からの巡回船が来るまで船長の直属の部下と行動を共にする。
「やった、やった!これで大金持ちじゃない!」
幾らの値がつくのかまだわからないだろうが幹部クラスに移動が決まるなら数百万、いや数千万は下らないのじゃないだろうか。
私は興奮して飛び跳ねていた。オジジと一緒に喜ぼうと駆け寄り抱きしめたが、ふと冷めた気配を感じた。
「オジジ、嬉しくないの?大物で特級だよ?」
見上げた顔は複雑そうだ。今朝はオジジも興奮気味だったのに今は寂しそうにも見える。
「いや、そんな事はない。だが先の事を考えると喜んでばかりもおられん。お前、この先船を降りることになるがその事はわかっているのか?」
「はぁ?……船を降りるって、どうして私が?」
回収船に来る殆どの人は一攫千金狙い、または借金からの逃亡だ。だから大物遺物を当てれば船を降りていく。
私は借金があるわけでは無い。回収船で拾われた言わば回収船産まれ回収船育ち。ピッポと同じで陸には上がった事は無いし、あちらには居場所もない。
「お前が発掘した物はただの大物遺物じゃなく特級に区分された。発見した者はそれを王都の研究室へ納める義務が生じる」
「なにそれ?初耳なんだけど」
オジジの話によると、大物遺物は物によっては今後、国への貢献度が高い魔導具になる可能性があり、その利権を国が持つという譲渡手続きが必要で書類にサインさせられるらしい。
これまで大物遺物を発掘した人は全員当たり前のように船を降りていったのでその後の事なんて気にした事が無かったがそんな面倒くさい手続きがあったのか。
「なんだそんなことか。手続きが終わればまたここに戻ってもいいんでしょ?」
私がそう言うと今度はオジジが驚いた顔をした。
「船に戻って来るつもりなのか!?陸で暮らせる金が手に入るのだぞ?」
「だって、陸にはオジジもリュディガーもいないでしょ?そんなとこで暮らせないよ」
ずっと三人で暮らしてきたのに何を言ってるんだオジジは。
「な…………そう、じゃな」
オジジは少し放心したようになっていた。疲れでもたまっているのかなとそっとしておいたが、そこへピッポとカイが食事を持って戻って来た。
「なんだか変な雰囲気だな。またエメラルドが何かやらかしたか?」
部屋に入るなりピッポがニヤついている。
「いいから早く用意して。お腹減ったよ」
いつものようにテーブルを出しそこへトレーを乗せるが乗り切らない。今日は人数が多いので私が物置に使っている棚も持ってくるとテーブル代わりに使い、オジジのベッドの下から空き箱を出してイスの代わりにした。
皆が着席する。
カイが当たり前の様にここで食事をとる流れになってるけど大丈夫なの?っと思っていたらリュディガーがシャワーから帰ってきた。
「早かったね」
「何故お前が俺のイスに座ってる?」
声をかけた私ではなく隣の男をギロリと睨んでいる。
カイがどさくさに紛れて一緒に食事を取ろうとしたため急ごしらえで広げたテーブルとイス。そこだけが誰も座っていない。
「いやだって、リュディガーがいなかったから……ごめん、直ぐに移動する」
言い訳をしかけたカイの足をピッポがテーブルの下で蹴ったようだ。
直ぐに空いた席にリュディガーが座りカイが不安定な箱に座った。
今日は船が安定していて良かったね。
やや気不味い雰囲気の中、ピッポが軽口を叩いて和ませてくれなんとか食事が終わった。トレーに食器をまとめているとオジジが話があると口を開く。
「エメラルドの事じゃが、この後モッテンと話をし幹部クラスの部屋へ移動になる」
「おぉ、やっぱり!良かったなエメラルド」
直ぐに笑顔を見せてくれたのはピッポだけだ。リュディガーは真剣な顔をして俯いた。
喜んでくれないの?
「待て待て待ってくれ!幹部クラスへ移動ってことは大物ってことか?もしかして特級……っ!?特級なのか!確定されたのか、そうだろ?ということはエメラルドは船を降りるのか?そうなんだろ?そうだろそうだろ、イテッ!」
急に立ち上がって興奮しだしたカイがガスっという音と共に床にへたり込み脛を押さえている。
「カイ、静かに」
ピッポが子供に言い聞かせるように言う。
「ごめん、黙ってる」
痛みをこらえながら動かないカイは置いておくとして。
私は自分のベッドの方へ行きシーツの上に身の回り品を無造作に置き、棚に置いてあった服もそこへ重ねると四方を寄せてきゅっと結ぶ。
「じゃあ私とオジジは先に行くからさっさと荷物をまとめておいてね」
私とリュディガーの荷物は着替え位なものだ。だけどオジジはそうはいかないだろう。
「ピッポ、部屋の用意頼むよ。ベッドが足りないなら私は今使ってるやつでいいからカイと運んでね。オジジの仕事の道具はリュディガーが運ぶでしょ?でもとりあえず今夜過ごせる着替え位でいいんじゃない」
ついでにトレーを食堂へ返しておこうと手にとってドアへ進む。
「お前、オジジとリュディガーも連れて幹部クラスの部屋へ行く気なのか?」
ピッポが呆れたような声をあげる。
「当たり前じゃない。なんでそんな事聞くのよ?」
何故か部屋が静まり返ってしまう。
「エメラルド、幹部クラスにはお前が陸へ行くまでの短い期間使うだけだ。そこへわざわざ俺達も移動するのは手間だろ」
「えぇ?リュディガーまでそんな事いうの?陸へはサインしに行くだけなのよ。その後また船へ戻って来たらそのまま幹部クラスの部屋で暮らせばいいじゃない、大金持ちになったんだから。だってシャワーが毎日使えるのよ」
リュディガーは自分が毎日シャワーを使っているからその有り難みがよく分かっていないみたいだ。
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