第14話 発掘マニア2
コロリと転がった二つのキューブ。ひと目でそうだと分かるくらい付着物が少ない。そういえばトミーから取り戻したキューブもそこそ綺麗な状態だった。
今回の遺物回収は保存状態が良い場所なのかな?
メルチェーデ号はゆっくりと移動しながら海底を削って遺物を回収しているが場所によって
国によっては一か所をしつこく削り取って回収する事もあるらしいが、結局装置が届く深さには限界がある。
「キューブ出たぞ」
ピッポがささっと穴からキューブを拾い上げ箱へ投げ入れる。
「おぉ!出たのか」
カイが手を止めそれを見に行った。私もそこへさっきのキューブを投げ入れ直ぐに発掘へ戻る。
「お前達キューブを発掘した感動とかないの?」
淡々と作業する事にカイが残念そうな声を出しているが私としてはここで大物遺物を狙っているのだからただのキューブには今はそれほど関心がない。
ここはやっぱり遺物が集中していることは間違い無さそうだ。この場所だけでなく今回の漂流物全体に大物が潜んでいる可能性があるかもしれない。だったらここばかり掘り続けるのは得策じゃないかも。
ふと体を起こすと周りの様子を見た。
みな黙々と発掘しているがもしかすると凄い遺物を見つけて黙っているのかも知れない。そう思うと居ても立っても居られない感じがする。
「エメラルド、いいから落ち着け。兎に角今日はここを徹底的に掘ってかなきゃだろ?それともここを放棄して他を当たるか?」
ピッポが冷静な意見をぶつけてくる事がなんとも腹立たしいけれど正論だ。ここからもう大物が出ないにしても、出ないという確信を得なければ次だってきっちり探せないだろう。発掘は一歩一歩だ。
「そうね、わかった」
自分の気持ちを押さえ込むと改めて深く穴を掘っていった。
結果的にあれからは何も出なかった。
数個のキューブと取りこぼされていた鉄部品。成果としては悪くないが今朝の事を思えばガッカリしてしまう。
「モタモタするな!早く上がらねぇと閉じ込めっぞー」
終業の鐘がなりいつもの監視屋のマルコの怒鳴り声が響く。
「んん~、駄目だったか」
ぐんと伸びをして腰をとんとんと叩く。
「相変わらず年寄り臭いな。まだ一日目だぞ、それより早く飯に行こうぜ」
ピッポが杭を打ち穴を少し埋めていく。
「何やってんだよ、せっかく掘ったのに」
カイが不思議そうに言うとピッポがふんと鼻を鳴らす。
「こうやってどこを狙って掘ってるか多少誤魔化しておかないと余計な奴等が変なことを考えるんだよ」
「そうそう、杭から三メートル以内に体は入ってない、って言いながら端っこの方を範囲の外からクワの柄を長く持って掘ってきたりね」
「随分狡い事を考える奴がいるんだな」
「
最後にクワをその場に突き立てわかり易くマークしている場所を示しておく。
歩き出した私とピッポにカイもついて来る。キューブが入った箱は私が持って回収場からの階段を上っていると数人の男が声をかけてくる。
「よう、何が出たんだよ。ピッポと一緒に掘ってたろ?」
「別に何も」
新規ではないが顔を見たことがある程度の男だ。まともに相手をするわけない。
「なんだよ、生意気な女だな」
階段を上りきった所で男が私に手を伸ばそうとするとピッポがその手を掴んだ。
「やめとけ、リュディガーが黙ってないぞ」
「はぁ?俺が奴を怖がるとでも言うのか?」
ピッポが船長の命令であちこちで働いているのは誰もが知っている。だから皆んなそこそこ一目置いている存在なのだが、如何せん見た目はヒョロっとして迫力は無い。そのせいで船に来てから日が浅いやつはちょっと誤解している時がある。
「忠告してやってるんだよ。怖くないならもう少しここにいろよ。直ぐに来る」
「リュディガーの影に隠れていい気になってるんじゃねぇぞ!」
あぁ、馬鹿なやつだ。
ピッポの胸ぐらを男が掴んだ瞬間に向こうで他の男達が目配せし賭けを始めている。
「リュディガーが来る前に勝負がつく方に千ポイント」
「乗った!俺はリュディガーを信じて待つ!ピッポ、手加減してやれ!」
興味のない奴等はぞろぞろとその場から立ち去って行くが、賭けている二人の他にもけしかける声は聞こえる。
「おい、止めなくて良いのか!?あの体格さじゃキツイだろ?」
カイが驚いた顔でこっちを見てくる。
「大丈夫よ、直ぐ終わるから」
ほらって感じで顎をあげると丁度ピッポが相手の男の腕を掴んで引き倒そうとしたところだった。
「ハッ、細っこい腕で俺に敵うと思うか!」
男が踏ん張りピッポを持ち上げた。
「おぉー!イケーッ、ピッポ!」
歓声に応えるようにピッポが掴まれた手をそのままに、足を後ろへ振り上げ勢いよく男の胸に両膝をめり込ませた。
「出たーー!必殺膝落とし!!」
ネーミングセンスの無さは置いておくとして。
男は肋がいくらかイカれたような顔をしてドシンと尻餅をつきそのまま後ろへ倒れた。ピッポは胸ぐらから男の手を離すとそいつの耳をぐりっと捻り上げた。
「イーデデデッ!離せ!」
情けない声をあげる男はさっきまでの勢いを綺麗さっぱり無くしている。
「もう絡むな。俺だからこれで済んでるけど、相手がリュディガーなら消えてるぞ」
「わかった、わかったから」
ふぅ~っと軽く息を整えてピッポが私達の所へ戻って来た。
「腹減った。早く行こうぜ」
「お疲れ様」
「俺ピッポに逆らうの止めとくわ」
カイが真剣な顔で決意表明した。
意外なピッポの姿を見たカイが何故かそのままついてくる。
「ピッポは見かけによらず強いんだな」
一切助けようとしなかったカイが感心したように言う。
「見かけによらずは余計だろ。だいたい俺はここで産まれて育ったんだ。これくらい熟さなきゃやってけないよ」
「俺が危なくなった時も頼むわ」
「嫌だ、面倒くさい」
「冷たいな」
二人がごちゃごちゃ言い合っているのに気を取られて歩いていると何か固いものにぶつかった。
「何か揉めてたか?」
ピッポがさっき予告した通りリュディガーがいた。いつもなら部屋へ直行するくせに何故か迎えに来るようなマネをしている。
「うわっ、汗臭さ!さっさとシャワーへ行きなよ」
熔鉱炉で働く特権を大いに活用するように言う。
「お前を部屋に連れて行ってからだ。危ないからな」
「何いってんの?ピッポがいるよ」
「俺もいるぜ!うわっ、何する……」
ピッポがカイの肩を掴んでリュディガーから遠ざけた。
「俺とコイツで食堂に取りに行くからリュディガーと戻れよ」
カイの背中を押すようにピッポが足早に去っていく。
何だアレ。
「行くぞエメラルド」
リュディガーと並んで通路を突き当りまで進み梯子のような階段までやって来た。持っていた箱はリュディガーに取り上げられ追い立てられるように階段を第四デッキまで上って行き、部屋の前につくと中に押し込まれる。
「出るなよ」
「ちょっと!」
言い返す隙もなくリュディガーが去って行く。
だから何!?
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