第13話 発掘マニア1
結局カイはトミーに上手く使われてたようだ。私が回収場で何かを見つけた事をどこかから見ていたようで、カイを使って休憩時間に私に謝罪させて引き付けておいて自分はブレスレッドを外して侵入していたようだ。
予定よりカイが早く戻ってきた上に私のマークした所へ来てしまったせいで怪しい動きをするトミーを見てしまい事が発覚したようだ。
「信じてもらえると思ってなかったよ」
連れて行かれるトミーを二人で見送りながら突っ立っていた。集まって来ていた皆もそれぞれの場所に戻り発掘を再開している。
「ま、物的証拠もあったしね」
トミーのポケットにはまだ新しい泥がついたキューブが二個入っていた。私がマークした場所で見つけたらしい。私はそれを一つカイに渡した。
「助かったよ。あげる」
ポカンと口を開くカイを見てクスッと笑う。
「エメラルド、ずっとそうやって笑えばいいのに」
「はぁ?何言ってんの?」
「だから、あの汚い帽子なんかもうかぶらないで綺麗な髪も伸ばせばいいのに。きっと似合う」
それを聞いて慌てて頭を触るとサラリと髪に触れる感触がした。
しまった、警報に慌てて飛び出して帽子を忘れてたんだ。
取りに戻ろうかと階段のある方角を見るとオジジがこっちに向かって来るのが見えた。
「オジジ!ここだよ」
大きく手を振るとオジジが頷くのが見えた。
「おいおい爺さん起き出して大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。オジジはこの船の幹部で学者だし別に病弱じゃない」
「はぁ?俺を騙したのか?」
「私は何も言ってない。あんたが勝手にそう言い出したのを否定しなかっただけ」
「うぅ……」
カイの嫌そうな顔がおかしくてハハッと笑ったら彼も一緒に笑った。
「やっぱりそのままがいいよ」
その言葉は嘘がなく気持ち悪さも感じなかった。家族とピッポ以外の人の褒め言葉が素直に嬉しかったのは久しぶりだ。
こいつ変わったやつだな。
そんな気持ちを打ち消すようにオジジの方から何か圧を感じて振り向くと、遠く階段の方から物凄い勢いで近づいて来る影が見えた。
「やべぇ……」
カイが何かを悟ったようにさっきまでの表情を消し去る。黒い影はアッという間にオジジを追い抜き私の傍までやって来た。
「エメラルドっ!!」
「お疲れリュディガー」
「お疲れじゃない!」
額に青筋立てて体から湯気を立てるリュディガーは恐らく熔鉱炉から全力でここまで走って来たのだろう。この形相ならみんな慌てて道を開けたに違いない。皆様ご迷惑おかけします。
「どうしたの?」
「お前がまた面倒事に巻き込まれたって聞いたから来たんだ!」
ギロっと隣で微動だにしないカイを射殺せそうな勢いで睨みつけている。
「俺は無実だ」
感情を込めないように静かに主張するカイ。
「カイは巻き込まれただけ、逆に迷惑かけちゃってお礼言ってたとこ」
「あん!?」
怒りのぶつけ場所を否定されたリュディガーを呆れて見上げる。
「誰がチクったのか想像がつくけどちゃんと最後まで話しを聞いたの?」
ようやく傍までやって来たオジジの隣に後から来たピッポが並んだ。何故か数本のポールを手に持っている。
「俺は通信機でちゃんと話したぜ。エメラルドが現場を荒らされたらしいけどマルコがいるから大丈夫だぞ、って。でもまぁマルコが、ってあたりから走り出して音がしてたから聞こえてたかどうか知らんけど」
何故か舌打ちして顔をそらすリュディガー。私の横でカイが「俺の命に関わるんだからそこはちゃんと伝えてくれよ」って零してる。
ホントにね。私だって勘違いでリュディガーが誰かを海に放おり出すとこは見たくないわ。
「はいはい、もう大丈夫だってわかったでしょう?散ってちょうだい」
ピッポとリュディガーに手を振るとオジジが帽子を差し出してくれた。
流石オジジ。
「リュディガーは戻ればいいがピッポは儂が呼んだんだ。エメラルドの発掘を手伝ってもらおうと思ってな」
「「手伝う?」」
カイとリュディガーが疑問符を浮かべたような顔で首を傾げる。
「そうだ。この現場は何か大物が出る可能性が高い。今回の事がなくても確保する必要があるから最低でも二人体制で発掘したほうがいい」
「でもオジジ!ここは私が見つけた場所なのに」
遺物は発見者に権利が発生する。二人で発掘すればもう一人が見つけた場合そっちに持ってかれる。
「だからピッポなんじゃ。ピッポには船長命令で動いてもらうから権利は全てお前のものじゃ。安心せい」
なるほど、ピッポなら信用できるし手伝った分のポイントは船長がしっかり別で払ってくれるなら遺物を隠して盗られる事も無いか。
「わかった、それなら良いよ」
やっとこれで発掘が再開できると思ったのに、
「待ってくれ、俺もそこに入れてくれ」
急にカイが話に加わってきた。またリュディガーが睨んでるよ。
「何言ってるの話聞いてた?ここから出たものは全て私のポイントになるんだよ?」
ピッポは船長からの命令だからそちらからポイントが出るけど、そうじゃないカイにはなんの得にもならないだろう。
「ポイントはいらない。俺は発掘がしたくてこの船に乗ったんだ。大物遺物が出る可能性があるなら是非参加させてくれ!」
上手く話が理解できずオジジを見た。危険を知りながら発掘がしたくて船に乗るやつは時々来る。でもそれは大物遺物を発掘して大儲け出来るという夢があるからだ。
「俺の家は大きな商家なんだ。だから金には困ってない。調べてもらえばわかる」
返答に困っていると続けてカイがアピールしてくる。
「家は兄弟が継ぐことが決まってるから俺はそれを助けるか自分で事業を始めるかの話が出てたんだがどちらも興味がないんだ。だけど昔から古代文明エウテュテモス終末期の事に興味があって自然と遺物の事も調べてたんだ。それでいつしか発掘することが俺の目標になってた」
なるほど、古代文明マニアか。そういうのも極稀にいる。
「どうするオジジ?カイと二人だけって訳じゃないなら私は別に良いけど」
少し見直した所はあるけれどまだまだ知らない人だ。気は許せない。
「当たり前だ。二人きりだなんてとんでもない」
リュディガーがカイを睨みつけているがカイは絶対にリュディガーを見ずにオジジに視線を固定している。
オジジはちょっと思案するような顔をしたが頷いた。
「ピッポもいる。別に構わんじゃろ、モッテンには儂から話しておく」
オジジからの許可を得てカイが心底嬉しそうな顔をした。
あ、油断してリュディガーの方を見てビクついた。
「じゃあ今度こそもういいでしょ。仕事を始めさせて」
不満顔のリュディガーをオジジが宥めて連れて行くとやっと午後からの発掘を再開した。
「私はここの続きを掘るからピッポはそっちでカイはあっちね」
ピッポが持って来たポールで現場をざっくりと区分してそれぞれ発掘を始めた。
「なぁ、ここってもう大物遺物が出たのか?」
私はやっと手袋をはめクワを振り下ろし足元を掘り起こした。石や貝だらけの漂流物を物色しながら慎重に発掘していく。
「俺はまだ何も見つけられて無いんだ。なんかコツとかあるのか?」
流石にまだ乾き切っていないから水分を吸ってて重いな。
「さっきくれたのここから出たキューブだろ?まぁ、見つけたのはトミーだけど」
もっと一か所を深く掘ったほうがいいのかな?
「ピッポ、ここに来て。もっと深く掘りたいの」
「おう」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。俺もやる、っていうかもしかして俺のこと無視してる?」
カイが急に私の目の前まで来て言った。
「うん、うるさいから持ち場に戻って」
「エメラルド、ここか?」
ピッポが素早くクワでガリガリと不要な物を退けて慣れた手つきでどんどん掘り起こしていく。
私は出来た穴を見つつも掘り起こされた物を見逃さないようにそっちも調べて行く。
あ、またキューブが出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます