第3話 古代文明
オジジはこの船で唯一の学者だ。
噂によるとその昔、陸でお城に勤めるお偉いさんだったらしいが詳しいことは知らない。オジジはこの船の古株で、船長のモッテンくらいしかその当時の事を知らないみたいだけど奴も話したがらないので謎のままだ。
謎っていうのはいい。
なんだかワクワクしてしまう。
オジジが扱う遺物も謎だらけで見ているだけでワクワクする。
遺物は私が働いている発掘屋が見つける金目の物の中でもかなり一攫千金度が高い!
基本発掘されるのはキューブが殆どだが時折現れる大物遺物が凄い。
キューブも実は遺物の一種ではあるが欠片とかならそこそこ見つかるし、ほぼ完品も一ヶ月に何個かは見つかる。
だけど大物遺物は滅多に出ない!
クワで雑多な回収物の中を掘り起こしている時に
監視屋が確認に来てから本格的に発掘開始だ。
そこから出た遺物は全て発見者が権利を得て、船長が責任をもって鑑定して買い取りポイントに換算する。
この遺物の最終鑑定がオジジの仕事だ。
「オジジ、今日も昨日の続きなの?」
パンに齧りつきモグモグと食べながらオジジのベッドの方をチラッと見た。
「そうじゃ。どうもアレは何かの動力部分に使われていた部品の一部じゃな。複雑な魔導回路の形跡がある」
「動力ってことは何か大きな物を動かしていた部品ってことなんでしょう?」
「ふむ、古代文明『エウテュテモス』時代の何かの装置を動かしていたとして間違いなかろう」
オジジのベッドの足元部分には机と棚が設えられ、そこで作業することが出来る。ベッドは大きめに作られてあるし、オジジは小柄だから作ることが出来た空間だ。でっかいリュディガーなら絶対に無理だろう。
遺物の鑑定屋であり、魔導具の修理屋でもあるオジジにはこことは別に作業するための部屋はある。
そこには鑑定待ちの遺物や故障した魔導具が沢山置いてある。オジジの他にも鑑定屋や修理屋はいるが、オジジが一番だ。
「それにしても『
私は今日見つけたキューブをハンカチを使って直に触れないようにポケットから取り出して人差し指と親指で挟んで目の高さに持ち上げて言った。
「おぅ、良かったのぅ」
「無いよりわね。あぁ~私も早く大物遺物を発掘したいよ」
「まぁ気長にやることじゃ。貸してみろ」
言われるままに私はキューブを渡した。
オジジは胸ポケットから手の中に収まる位の大きさの筒状のマイクロスコープを取り出してハンカチごと私から受け取りキューブの鑑定を始めた。
このマイクロスコープはロストテクノロジーを活用して作ったオジジ特製の魔導具だ。
通常の物は机に固定された二十センチ四方、高さ三十センチ位の大きさで両手で操作しなければ扱えない代物だが、オジジは自分が作業に集中したい時に自室のベッドに籠もるので持ち運べる簡略化された物を作り出したらしい。
勿論固定型の方がより精密に見えるらしいが初期鑑定では十分これでこと足りてる。
「どう?ちょっと黒っぽくない?」
キューブだという事は私でもわかる。発掘し始めの素人なら兎も角、既にこの道二年。それに私は小さい頃からオジジが持ち込む鑑定待ちの遺物やキューブを見慣れているせいか多少は目が利く。
キューブは四つの種類があるが黒は滅多に見つからないレア物で他のキューブより三倍以上の値がつく。
「ふむ」
オジジはヨッコラショといいながらベッドの足元に設えてある棚から小さいプレートを取り出してキューブを置き、小瓶に入った薬剤を手に取り蓋に付いているスポイトで一滴、さっきのキューブにかけた。
薬品がじわっとキューブの外側を包むように滑り落ち表面を細かな泡がシュワシュワと溶かす様に流れていく。
発掘したばかりのキューブは海水に浸かっているせいか、風化のせいか、付着物がこびりつき見た目が汚い。それをキューブ鑑定用の薬品をかけて表面の汚れを落としハッキリと何色かを決定するのだが、発掘した瞬間に本来の地の色が薄っすら垣間見える物もある。
私が今日発掘したものは幾らか付着物が付いているが一部分が薄っすら艶があり黒い。期待し過ぎて思い込んでいるのかも知れないが黒キューブな予感がするぅ!
「どうなの?ねぇねぇ!」
結果を待ちきれず、うずうずとする気持ちをぐっと堪えつつオジジをじっと見た。
「ふっ、黒だな」
「ぃぃヤッター!!」
拳を突き上げて歓喜に浸る。
これは私の初黒キューブだ。
微笑ましそうに目を細めるオジジの横で一人で騒ぎながら喜びを噛み締めているとドアを誰かがノックする。
ハッとしてオジジがサッと薬品を拭って黒キューブをこちらへよこし、私はそれを素早くポケットにしまう。
「はい、誰?」
嬉しすぎてほころぶ頬を無理やり静めるように軽く叩いて気を引き締める。
「オレだ」
なんだピッポか。
「オレじゃわかんない」
「いや、わかるだろ。開けろよ」
応対しながら立ち上がり仕方なく鍵を開けてやると幼馴染みのピッポが自分の食事を持って入って来た。
流れるようにテーブルに食事を載せて当たり前のようにオジジのベッドの下からイスを取り出すと座って食べ始める。
「昼間はまだいい天気だったけど、もうすぐ荒れそうだ」
もしゃもしゃ食べながら話すピッポにオジジが軽く頷く。
「今は西向きに進んでおるからな。こっから暫くは荒れるじゃろ」
私達が乗っている『メルチェーデ号』はエルドレッド国の船だ。
この世界にある人が住める陸は全部で三つ。
三つの内、最大の国土を持つ最大の国、エルドレッド。
その東南に位置する二番目の国土を持つ国、フィランダー。
そしてエルドレッド国の三分の一にも満たない国土の最北の極寒の国、ノエル。
エルドレッド国は三つの国を取り纏めるような存在で、魔導具を開発、製造する最大の国であり、そこに住む人々は三カ国で一番豊かな暮らしをしていると言われている。
フィランダー国はエルドレッドに次ぐ国土を持っていてその産業の要は農業や漁業。華やかさは無いが堅実な国と言われている。
そして最北の国ノエルは気候が厳しく作物もあまり育たない貧しい国と言われている。僅かに鉱石が取れるらしいが土は硬く凍り鉱山の採掘もままならないらしい。
どの国も独自に回収船を出しブルーズシーで遺物を集めているが、やはり国土が大きく人口も多いエルドレッドが一番多くの船を所有し、一番多くキューブを回収している。
キューブは古代文明『エウテュテモス』時代の遺物であらゆる魔導具を動かす為に必要な物だ。魔力を吸収し変換するキューブがなければどんな魔導具も動くことはない。
その昔、人々は多くの魔力を有し今では考えられない様な魔術を操り巨大な装置を作り出し動かしていたという。
当時は人々の魔力も強大で、ある者は森を焼け野原にするほどの強力な炎を操り、ある者は大きな湖を瞬時に凍らせる力を持っていたという。
その強大な力で様々な魔導具を開発し、文明を発展させ暮らしを豊かにしていた。中には夜空に浮かぶ星まで行っていただろうという説を唱える学者もいる。
だがそれもある時を境に失われた。
文明は消え去り大陸は海にのまれた。
人々に残されたのは僅か十分の一程度の陸地と、外部に出力出来ない弱い魔力だった。
これが歴史書に残されている古代文明エウテュテモス終末期の出来事だ。
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