第9話 残党

 血が夜の闇に飛び散り、地面に落ちた2つの頭が石畳に鮮やかな赤い跡を描く。

 それに続くようにユキオとルシードは首から激しく出血し、その場に崩れ落ちた。

 その様子を近くの家の屋上から見ていたハザマ、エルトゥーダ、タクは戦慄する。

「な……なんだよ! あいつ!」

 とハザマが声量を限りなく抑えつつも感情的な声を出す。

「し……知るか! でも……あれって……二人の頭だよな……」

 とタクは冷たい汗が背中に流れ落ちるのを感じながら囁き声で感情を露にする。

「あぁ……あの黒帽子の仮面が殺したんだ……手……手を振り払っただけで……」

 とエルトゥーダが困惑しながら状況を口にする。

「ど……どうする。て……撤退するか?」

 とハザマが歯をガチガチと鳴らしながら二人に同調を求めた質問をする。

「……あぁ、あれは絶対にやばい。早いとこ……ここから離れよう。」

 とエルトゥーダが答える。

「ま……待て。だ……誰か出てきたぞ。」

 とまだ、100000エセリウムを逃すことに迷いがあるタクが馬車を指差す。

 穴だらけの馬車から少し小太りの貴族のおっさんが重そうなアタッシュケースを持って降りてくる。

「あ……あの、アタッシュケースに10000000エセリウムが入ってんじゃね?」とタクが小声で訴えかける。

「ほ……本当に助かったよ……街中で突然、初対面の君が私を無償で護衛してくれると言ってくれた時は驚いたが……君が護衛の話を持ってこなければ私は殺されていた……本当に無償でいいのか? 君になら金は惜しまないよ。」

 と貴族の小太り男は黒帽子の仮面に感謝の言葉を告げる。

「いえ……無償で護衛するという条件ですので、その必要はありません。」

「そ……そうなのか。しかし、馬を殺されるとは……だが、この34番通りを駆け抜けた先に馬車のレンタルがあったはずだし、病院には何とか間に合うか……君が取り合えず強盗集団を撃破したから、今この瞬間だけは安全だろうしな。」

「強盗集団を撃破ですか……私はそうは思いません。こいつらが出てきた場所を見てみてください。」

 と黒帽子の仮面は、二人の死体を乗り越えて、馬車のすぐ近くにある家の壁のほうへ向かう。

「おそらく、この二人はこの家の壁に隠れて奇襲を仕掛けてきたのです。で、気になるのは馬車とこの家の壁の距離が近すぎるということです。端的に言えば、この二人は何らかの合図を受けて飛び出したのではないかと私は推測します。」

「ば……馬車は馬の蹄の音が響くし、それに合わせたのではないですか?」

「そうかもしれませんね。しかし、もし私の推測が正しければ強盗集団の残党が近くにいる可能性が高いということです。」

「な……なるほど……ここは依然として危険な可能性が高いと……」

「私は今から強盗集団の残党狩りをします。貴方はその間にこの34番通りを駆け抜けてください。」

「ま……待ってくれ。この通りのどこかに強盗集団の残党がいるなら……ここを一人で走り抜けるのは危険なのでは!?」

「いえいえ、大丈夫です。なんなら今すぐ駆けてもらって大丈夫ですよ。」

「だ……大丈夫?」

「えぇ、こちらをコソコソ見ている3匹を見つけたので」

 と黒帽子の仮面はそう呟いた瞬間、近くの家の壁を蹴り上げ、軽やかな様子で一気に屋上に飛び乗った。

 そこから屋上から屋上に飛び移る形でハザマ、エルトゥーダ、タクがいる屋上に高速で近づき始める。

「や……やばい!! バレてるぞ!!」とエルトゥーダが小声で叫び、ハザマ、エルトゥーダ、タクは全速力でその場から逃走する。

 彼らの足音が屋根瓦に響き、その音が夜の静寂を切り裂いた。

 必死に走る三人の心臓は激しく鼓動し、冷たい風が顔に当たる。

「ま……まじで何だよ! あいつは!!」

 とハザマが恐怖を隠し切れずに呟く。

「しゃ……喋んな……今は逃げること優先。」

 とエルトゥーダは酸素の量を減らさないように呟く。

 ハザマが一瞬振り返ると、暗闇の中に微かな動きを目撃する。

 ほとんど音もなく、闇夜に溶け込んでいるが明確に追いかけているのが分かった。

「やばい、やばい、やばい、来てる、来てる」とハザマが息を切らしながら呟いた。

 エルトゥーダもその気配を感じ取っていた。

「だ……だから、喋んな! ここは34番通りだ!」

 エルトゥーダは背後から迫り来る冷たい視線を感じ、体中が硬直するのを感じるが二人を励ますために言葉を発した。

 34番通り。

 20人体制で治安維持隊に追われたときも逃げ切ることができた場所。

 この屋根を降りた先にイロハが見つけた逃走ルートの中で最高傑作とも言われる場所がある。

 そこにさえ入り込めば絶対に逃げ切れることができる。

 そこはかなり複雑に入り込んだ迷路。

 そうさ。逃げれるんだ。

 ビビることなんて何もない。

 いつものように。

 ハザマ、エルトゥーダ、タクは最強の逃走ルートに入るための最後の屋根の中間部を抜けた。

 足元の瓦が軋む音が響き、彼らの呼吸は激しくなっていた。

 あと少し、あと3秒程度で屋根を飛び降りれる状況になる。

 突然、遠くから何かが空を切る音がした。

 そして、エルトゥーダの右隣にいたハザマの頭に何かが直撃した。

「グシャッ」と鈍い音が響き、ハザマは無言で崩れ落ち、その頭から大量の血液と脳髄を肉骨を突き破る形で飛び出させていた。

 そして、その割れた頭の近くで同じように割れた屋根の瓦があった。

「え?」

「止まんなッ!」

 とエルトゥーダが叫んだ瞬間、同じようにタクの頭にも屋根の瓦が命中し、頭蓋骨が派手に砕ける音がした。

 大量の血飛沫が飛び散りタクの言葉が途切れる。

「ぐ……間に合え!!」

 エルトゥーダは屋根の端にたどり着くと、全身の力を振り絞って屋根を飛び降りた。

 後ろから再び風を切る音が聞こえたが、その瓦はエルトゥーダの髪を掠めるように通り過ぎ、近くの石壁に激突して粉々に砕け散った。

「はぁ……はぁ……」

 エルトゥーダは地面に無事着地した。

 への恐怖心により体力がかなり削られて、喉が乾き、心臓が激しく鼓動を打っていたが、もたもたしているとが来る。

 エルトゥーダは疲労感が全身を包み込み、重く鉛のように足を引きずりながらも、一歩一歩、まるで釘を打ち込むように地面を踏みしめて迷路のような街中へと駆け込んだ。


 第9話を読んでいただきありがとうございます!

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