第7話 クソ野郎

 薄曇りの夜空には星ひとつ見えず、朧げな月の光だけが地面に淡い影を落としている。

 そんな静まり返った闇の中、ある家の一角から微かな光が漏れ出ていた。

 薄暗い照明が天井からぶら下がり、部屋全体に微かな光を投げかけている。

 壁には様々な地図や計画書が貼られており、中央のテーブルには強盗グループである10人が集結していた。

「さて、今回の標的はフエル夫妻だ。明日の20時~21時までに45番通りに現れるらしい」

 とカムイは告げる。

「夫妻か、今回のは楽勝そうだぜ。」

 と実行役のユキオがは腕を組み、冷笑を浮かべて言う

「いつものように都会に住んでいる平民だ。一応調べたが魔法使いではないから自衛能力はない。」

 と情報係のユミは断言する。

「まぁ、魔法使いだったとしても俺が嬲り殺すけどな。」

 とユキオが続ける

「魔法使いだったら、お前が勝てるわけないだろう。 でその夫妻は何のために人通りが少ない45番通りに現れるわけ?」

 とバックアップ担当のルシードが質問する。

「5年目の結婚記念日なんだとよ。 45番通りはフエル夫がプロポーズした場所だから結婚記念日は、夕食後、毎回そこに行くらしい。」

 とユミが質問に答える。

「あらら、可哀そうに、結婚記念日にボコボコにされるなんてな。」

 と交渉係のタクがほんの少しだけ同情を込めて言う。

 タクの声には皮肉めいた響きがあり、他のメンバーは軽い笑いを漏らす。

「ということで明日は、ミナイがその夫妻を偵察して、細かい時間調整をしつつ45番通りに夫妻が来たら、ユキオがやれ……あぁ、一応警告しておくが殺すなよ。できるのであれば一撃で気絶させろ。」

 とカムイが作戦を纏め始める

「へいへい。わかっておりますよ。」

 とユキオは肩をすくめながら答える。

「基本的にユキオだけで事足りるだろうが、ユキオが困るような事態が起きたらルシード、いつものようにバックアップを頼む。」

「了解っす」

「で、ユキオが仕事をこなせるように監視を頼んだぞ。エルトゥーダ。」

「……了解。」

「次に、45番通りから治安が来たときの逃走ルートはできているな? イロハ。」

「ええ、もちろんっす」

「俺の出番は連続でなしっすか。リーダー。」

 と交渉係のタクが告げる

「適材適所というやつだ。今回は言葉よりも暴力のほうが手っ取り早い。」

「じゃあ、こいつの分け前は今回は0でいいっすよね! リーダー!」

 とユキオが告げる

「いいや。タクにはいつものように他のことを手伝ってもらうから、そんなことはない。」

「まったく、金にがめつい奴だぜ。」

 とタクがあきれたように呟く。

 それから実行日まで、テーブルに広げられた地図や計画書に、新たなメモが次々と書き加えられていき、作戦は次第に具体的な形を成していき、完成した。


 20時12分。45番通り

 夜の帳が降り、街灯の薄明かりだけが通りをぼんやりと照らしている。

 建物の影が長く伸び、静寂が支配するこの場所に、夫妻の足音がかすかに響く。

 フエル夫は、妻の手を優しく握りしめながら歩いていた。

 二人の顔には、食事の余韻と結婚記念日を祝う幸福感が漂っている。

 彼の瞳は柔らかな光を宿し、隣にいる妻を見つめるたびに微笑みが浮かんだ。

 妻もまた、その視線に応え、穏やかな笑みを返していた。

 二人はゆっくりと歩みを止め、プロポーズの場所と同じ角に立ち止まった。

 そこは古びた街灯の下で、淡い光が二人を優しく包み込んでいた。

 夫はポケットから小さな箱を取り出し、妻に手渡した。


「これ、5年目の記念に」と夫が言った。


 妻は箱を開け、中に入っていた美しいペンダントを見つめた。

「ありがとう……本当に素敵ね」と彼女は感動に目を潤ませた。

「おお、熱々ですねぇ~」

 とユキオが夫の後ろから言う。

「な! なんだ! おま……」

 と夫が言い切る前に、ユキオは素早く木製のバットを振り上げ、そのまま夫の頭に向けてフルスイングした。

 鈍い衝撃音が響き渡り、夫はその場に崩れ落ち、額から鮮血を地面にぶちまける。

 頭に激しい衝撃を受けたため夫は意識を失い、無防備なまま地面に横たわる。

「しゃあ!! 一撃!!」とユキオは歓喜の声を上げる。

「きゃ……」と妻が悲鳴を上げようとした瞬間、ユキオはその妻の首を絞める。

「あぶね~悲鳴はまずいんだよ。おーい! 周囲の状況は?」

「……問題ない。誰も周りには来ていない。それよりも、とっととその女を気絶させろ。」

 とエルトゥーダがユキオに告げる。

「へいへい。」とユキオは軽く返事をし、妻の首をさらに強く絞めた。

 彼女の顔は次第に青白くなり、数秒後、酸欠により彼女は意識を失い、無力に地面に倒れ込んだ。

「はい、いっちょ上がり」

 とユキオは満足げに言い、気絶した夫の服を探り始めた。

 ユキオの手は冷静かつ迅速に動き、分厚い財布を見つけると紙幣がぎっしり詰まった中身を確認し、にやりと笑った。

「おお、やっぱ結婚記念日なだけはあって、財布は分厚くして来てんのね。」

 とバックアップのルシードがひょっこりと現れて言った。

「おい、なんでお前まで来る。誰かが来たらどうするんだよ。」

 とユキオは顔をしかめて苛立ちながら言った。

「大丈夫だって、エルトゥーダが見張ってるからよ。それよりもだ、ちょいとその女で楽しむのもいいんじゃねぇかなと思ってよぉ。」

「おお! いいねぇ! たまには良いこと言うじゃねぇかよ!」

 とユキオとルシードが気絶した妻に近付き始める。

「お……おい」

 とエルトゥーダがユキオとルシードの肩に手を置く。

「チッ! 何やってんだ! てめぇは見張りだろうが、それとも何か? お前も混ざりたいのか?」

 とユキオが小声で激昂する。

「そ……それは仕事に関係ないことだろう……それに良くないことだし……」

「…………は? お前……罪悪感とか覚えてんの?」

 とルシードが目を細めて言う。

「…………」

「…………もう遅ぇんだよ。てめぇも俺もユキオも他の強盗メンバー含めてクソ野郎なんだよ。だから何したっていいじゃあねぇか、俺達は何をしたってクソ野郎なんだからよ」

「……そうか」

「お前ら! 何もたもたしてる! 治安が近くで巡回しているぞ!」

 と囮役を務めるハザマがこちらにダッシュで向かって物申す。

「ちっ」とユキオとルシードは舌打ちをし、すぐにハザマに続いて逃げ始めた。

 エルトゥーダも彼らの背中を追う形でその場から急いで離れた。

 夜の冷たい風が彼らの背中を押し、急ぎ足で通りを駆け抜ける。

 彼らの姿が闇に消えゆく中、45番通りは再び静寂に包まれる。

 そこには夫妻の無防備な体が地面に横たわり、薄暗い街灯の光がその姿を幽かに照らしていた。


 第7話を読んでいただきありがとうございます!

 強盗グループに属しているエルトゥーダがこれからどうなっていくのか気になる方や面白いと思ってくださった方は、★評価とフォローをお願いします。

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