第5話 りんご
「では生体回路と
「どんな魔法を教えてくれるんだ? というか魔法って何ができるんだ?」
「応用次第では何でもできますよ。水を生み出したり、火を出したりとか、他にも変わった魔法が沢山あります。」
「何でもできるんだったら、貧困とか食糧問題とか魔法災害とかいった社会問題も何とかできないのか?」
「現段階の人類の魔法技術じゃあ無理ですね。まぁ魔法を極めた先にはそういう社会問題も解決できるようになるかもっていうのが現代魔法の思想としてありますが。」
「なるほどね。」
「では最初は初歩魔法の一つであり、比較的安全な
「
「風を発生させる魔法ですよ。まぁ実際に見たほうが早いですね。
リトの指先から淡い緑色の光が浮かび上がり、次の瞬間、窓は閉じられているのに部屋の中にそよ風がふわりと舞い込んできた。
柔らかな風がエルトゥーダの髪を揺らし、肌に心地よい感触を与える。
「今のが
「はい。そうです。これは簡単なのですぐに出来るようになると思います。」
「
「レベルというのはその魔法の精度や威力を表しています。要するにレベルを付けることでその魔法をどのくらいの精度や威力にするか決めているのです。」
「ただ、レベルを上げるたびにその魔法の発動条件や
「なるほどね。で具体的にどうやったら
「体にある
「わかった。やってみる。」
エルトゥーダは深く息を吸い込み、体内で流れる
まず、エルトゥーダは自分の胸の奥に集中する。
そこには暖かなエネルギーの源があり、それが体中に行き渡っているのを感じた。
そのエネルギーをさらに集中して観察するとそれは微かな光の粒子のように感じられる。
リトの助言を思い出しながら、エルトゥーダは頭の中で具体的な風の流れを描き、そのイメージに沿って光子を手のひらへと導くイメージを膨らませる。
手のひらが温かくなり、その中心にエネルギーの塊が形成されるのを感じる。
それはまるで、光の球体がエルトゥーダの手の中で息づいているかのようだった。
光の球体が徐々に変形し、無数の細かな粒子が空中に拡散していくように感じる。
エルトゥーダは手から解き放たれる風が部屋の空気を揺らし、穏やかなそよ風として広がっていく様子を思い描く。
いける。
「
「……あれ。」
エルトゥーダは自信満々に唱えたが部屋には何の変化もなかった。
「まぁ、最初はそんなもんです。」
「何というかあれだな……失敗した時、なんか一発ギャグをして滑ったみたいなそういう最悪な気分になるな。」
「そういうのを乗り越えて芸人は、一流になっていくのです。エルトゥーダも立派な芸人を目指すつもりで頑張ってください。」
沈みゆく夕陽がレンガ造りの建物や狭い路地に長い影を落とし、その薄明かりの中に沈んでいく。
薄暗くなり始めた空は、灰色と赤の混ざり合った奇妙な色合いを呈し、冷たい風が吹き抜けると、路上に散らばる紙くずや枯葉が舞い上がった。
通りの両側には、古びた木製の扉がきしむ音とともに開け閉めされる店が並んでいる。
その店先には、売れ残りの果物や野菜が積まれ、腐りかけた匂いが漂っている。
リトは、その中から買ってもらったリンゴを夕食として食べていた。
リトはその酸っぱさと苦さが入り混じった味に顔をしかめる。
リンゴの中は変色しており、いくつかの部分は腐敗が進んでいた。
「こりゃ、激マズですね。リンゴをここまで不味くできるのは才能じみたものを感じます。ねぇ、エルトゥーダ」
「
エルトゥーダが唱えるとその手から目にも留まらぬ速さで鋭い風の刃が放たれた。
風の刃は透明な光を帯びており、まるで空気そのものが刀となって切り裂くようで刃が発せられると同時に、空気が引き裂かれる音が響き渡り、その音は部屋全体に反響する。
風の刃はまっすぐに机の上へと向かい、その軌道上にあった空き瓶がその刃に触れた瞬間、きらきらと砕け散り、まるで星屑のように輝きながら空中に舞い、ガラスの破片は夕日を受けてきらきらと光り、机の上には無数の小さな虹が生まれた。
「貧民街のリンゴなんてそんなもんだ。」
エルトゥーダは魔法の発動を確認した後に肩をすくめながら答えた。
「それにしても、上達が思ったより早かったですね。まさか、大体の初歩魔法を一日も経たずに覚えるとは、それにレベル3の初歩魔法をこんな短期間で使えるようになるなんて、才能があるかもですね。」
「そうか。魔法ってのは疲れるけど楽しいな、新しい魔法を教えてくれよ。」
「今日は魔法を使い過ぎなので明日、教えてあげます。無茶はよくないですからね」
「そうか、わかった。」
「所で、このリンゴわざわざ買ってきてもらって申し訳ないのですが。これより食えそうな食べ物を食べさせてください。」
第5話を読んでいただきありがとうございます!
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