第3話 銀髪の幼女

「……は?」

「むにゃ……むにゃ……」

 帰ったら自分の家の床に銀髪の幼女が寝ていた。

 髪は真っ白に近い銀色で腰に届くほど長い。

 前髪はぱっつんで、サイドの髪が少し髪が顔にかかるようにカットされている。

 肌は陶器のように白く、透明感がある印象。

 頭にはシルバーのティアラがあり小さな宝石が埋め込まれているように見える。

 首にはシンプルな銀のペンダントをしており、ペンダントトップには青い宝石が輝いている。

 服装は襟と袖口に白いふわふわの毛皮がついた薄いブルーのベルベットコートとパステルカラーの裾にレースがあしらわれたプリーツスカート。

 靴は黒のレースアップブーツで、長い靴下には薄い銀糸で織られた模様が入っている。

 何というか、この貧民街に似つかわしくないような豪華な格好だった。

「……おい。おい、起きろ、なんだお前は」

 と僕は、床に寝そべっている幼女をゆする。

 彼女の体は思ったよりも軽く、柔らかかった。

「う……うん。後、朝日が昇るまで……」

 と幼女は答えて、起きようとしない。

 その声はか細く、まだ夢の中にいるようだった。

「お……おい! 起きろって!! 誰だよ! お前は!」

「う……ん……師匠もうちょっと寝かしてください……」と彼女は眠そうに呟きながら、再び深い眠りに落ちようとする。

「おい! 師匠って誰だ! とにかく起きろって!!」

「はぁ……うるさいですね。」とその幼女は目を開けて、上体を起こした。

 その幼女の目は紫色の瞳で、瞳孔の周りに淡い金色のリング、瞳の中には星座のような形をした微細な模様、そして長くてふさふさの睫毛があり、瞬きをするたびに軽やかに動いていた。

「なんだ。お前はどうやって僕の家に入った。」

「あぁ、そりゃ魔法でちょちょいのちょいですよ。私は魔法使いなので」

「魔法使いか。ということは……というよりその恰好的にお前、ここらの人間ではないな? 親はどうした。」

「全く、子供扱いしないでください。私は立派な12歳なのですから」

「ガキじゃねぇか。いいか大人の忠告として教えといてやる。今すぐこの街から逃げたほうがいい。ガキが生きていられるような場所じゃねぇよ。ここは」

「大人って、私から見ると、貴方がダンディーな大人には見えないのですが。貴方は何歳なのですか」

「あぁ? 16歳だ。」

「私と4つ程度しか変わらないガキじゃないですか。」

「ここじゃ、16歳は立派な大人……いや僕が立派な大人とは言えないか……とにかく親は? その身なりってことは貴族階級かそれに近い家だろ。」

「親は、いないです。私が7歳の時に死にました。それからは師匠の家に住んでいたのですが。喧嘩して家出したんです。それからフラフラと歩いてたらここに着いてました。」

「じゃあ、その師匠とやらの家に戻るんだな。ここは貧民街、お前のような豪華な格好している奴は身ぐるみ全部持ってかれるぞ。いや、それ以上の地獄が待ってるかもな。」

「い~やです! 私の頭は不快と怒りの絶頂に達しているのです。暫くは帰りたくありません。」

「じゃあ、死ぬ覚悟を決めるんだな。」

「多分ですけど、私は死にませんよ。私、結構強いんで貧民街の住民ぐらいなら何人同時に来ても返り討ちにできます。」

「あぁ、そうかい。じゃあ、いつまでも家にいないで出て行ってもらおうかな。」

「ちょっと待ってください! 家はないと困るのです! 居候させてください!」

「ふざけんな。そんな余裕があるかよ。出ていけ」

「待ってください! 何でも……はしたくないから。出来る範囲でなら何かしますよ! Hなサービス以外!」

「いいから、出ていけ!」

「わかりました! 魔法を教えてあげます! 魔法って貧民街で使える人少ないから、絶対何かの役に立ちますよ!」

「……魔法を?」

「はい。魔法を教えてあげますよ。魔法使いは稼げますよ~大富豪の大半は魔法使いですしね。」

「魔法……か」

 悪くないかもしれない。

 100000エセリウムを払って、市場の新規参入権を買った後、何を売り出すかはずっと悩んでいたことだった。

 しかし、魔法が使えるとなると魔法の大道芸や何か魔法関連の仕事で稼ぐことができるかもしれない。

 この幼女に見える少女が言った通り、この貧民街は勿論のこと、僕が目指す平民が多い都会の市場でも魔法を使えるものはそこまで多くない。

 つまり魔法は僕の活動範囲内において希少価値がかなり高いということ。

 夜の闇がゆっくりと消え始め、貧民街の上空にほのかな薄明かりが差し込む。

 冷え込んだ空気はまだ重く、霧が路地を覆い尽くしている。

 薄明かりはやがて橙色に染まり、東の空が燃えるような朝焼けに変わっていく。

 ひび割れた石畳と古びた煉瓦の建物が、朝日によって柔らかく照らされる。

 屋根の上には、夜通し鳴り響いていた鳩たちが、日の出を合図に静かに羽ばたき始める。

「お前、名前は?」

「リトです。」

「そうか。僕の名前はエルトゥーダだ。貧民街のパンは固くて不味いからな覚悟しとけよ。」


 第3話を読んでいただきありがとうございます

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