第2話 分け前
息が荒く、肩で息をしている中、4人の若者は遂に貧民層の隠れ家まで逃げ切った。
軋む音を立てながら重い扉を開けると、灯油ランプが照らすほの暗い部屋が僕たちを迎える。
壁は汚れており、空気はカビの匂いと古い木の香りで満たされている。
その空間に6人の若者が僕らの帰りを待っていた。
「ほらよ」
実行犯であるユキオが盗んだ財布をテーブルの上に放り投げると、その音に誘われるようにして、皆がその周りに集まった。
財布からは札束が溢れ出し、テーブルの上に散乱した。
リーダーであるカムイがゆっくりと手を伸ばし、札束を一つ手に取り数え始める。
「今日の財布は182000エセリウムか。大量だな」
とリーダーのカムイは札を数えながら言った
「ははッ!! 今日は大当たりだなッ!!」
と偵察係のミナイはテンションを上げる。
「いやいや分け前はどうするよ? 182000エセリウムを10人前に分けるとすると一人頭18200エセリウムだ。」
と囮役のハザマが疑問を呈する。
「18200エセリウム? ちょっと待ってくれよ。 なんで実行役の俺までお前らと同じ額だよ。」
と実行役で今日、富豪の一人を撲殺仕掛けた男。ユキオが文句をこぼす。
「お前がいつまでも相手ぶん殴って、財布をさっさと奪わないから治安維持隊に追い回されることになった。お前に特別な額があるわけねぇだろうが」
と監視役のエルトゥーダがユキオに吐く。
「あ? あぁ、手も汚してねぇ、見てるだけが仕事なら楽そうでいいなぁ!」とユキオは激昂する
「お前みたいに落ち着きがなくて人を痛ぶることが趣味のクソ野郎には無理だよ。」とエルトゥーダは冷静に煽る。
「はぁ~クソウゼェ!! 殺意が溢れてくるねェ!! 止められないねぇ!! やっぱお前殺すわァ!!」とユキオはナイフを取り出し、エルトゥーダもナイフを取り出して応戦の準備を整える。
「止めろ!! お前ら!!」とリーダーのカムイは叫ぶ。
「オイオイ。ユキオはやっぱりキレ症だし実行役に向いてねーんじゃねぇの?」
とバックアップのルシードが呟く。
「お前は今回なんもしてなかっただろうがッ!!」とユキオはルシードにキレる。
「何度説明したらわかるかな? お前が襲撃に失敗した時にサポートするのが俺の仕事。 それになんもしてないわけじゃない。お前がトロトロ殴ってるせいで来た治安維持隊に対応したのは俺だぜ。理解できるかなボケクソ君」
「ルシードもユキオを煽るのを止めろ!! それに腕っぷしはユキオがこの中で一番強いんだ! ユキオ! 他の連中の言うことは真に受けなくていい! 俺がお前こそ実行犯に向いていると思って配置しているんだ!! いいな!!」とリーダーのカムイが場の空気を整えようとする。
「うっす……」
とユキオがカムイの言葉で落ち着きを取り戻す。
「まったく分け前は毎回揉めるな。仮に功績で分け前が決まるのであれば、逃亡計画係の俺こそが、今回最も分け前をもらうべきだろう」
と今回警察から逃げ切るための逃走ルートを考えたイロハが発言する
「おーい。イロハくーん。その逃走経路は一人で作ったものじゃないだろう。俺も手伝ったのを忘れてないだろうな。」とターゲットの経済状況・移動パターンや地域情報を収集し、グループに共有する情報係のユミが発言する
「いつも見たく、均等に山分けがいいと思いまーす。」
暴力ではなくターゲットと交渉して、金銭を奪い取る交渉係のタクが発言する。
「異議なーし」
と奪った財布や他の戦利品などを管理し、後で売却する手筈を整える物品管理係のジュレがタクに同調する。
「やはり、いつものように山分けだ。18200エセリウム一人づつ受け取れ。」
とリーダーのカムイは182000エセリウムを18200エセリウムに分けた。
賛否がある雰囲気であったが、金の分配は終わった。
夜明け前の貧民街は、まだ夜の静けさをまとっている。
薄暗い路地を一歩一歩進むたびに、足元の石畳が軋む音が響く。
道端にはゴミ袋が無造作に積み上げられ、どこからか漂う腐臭が鼻を突く。
風が吹くたびに、古い看板が揺れ、かすかな音を立てる。
黒々とした空には星が瞬いており、月は薄く光を放ちながら地平線の向こうに沈みかけている。
街灯のぼんやりとした光が石畳の道を照らし出し、長い影を落としており、その光の下には、エルトゥーダがただ一人いた。
エルトゥーダは古い生地や廃材をパッチワークして作った長さ足りないローブもどきを羽織っている。
ローブもどきの下には袖や襟に異なる生地を縫い合わせたトップスと様々な色と形の補修パッチがあちこちに施されているダメージジーンズを着ており、靴は片方がブーツで、もう片方がハイカットスニーカーという貧民街特有の不揃いなスタイルであった。
エルトゥーダは少し丸みを帯びた輪郭で隈が付いた深い葡萄色の大きな目、薄くて引き締まった唇という特徴を持った顔であり、ペールベージュ色の長い髪はボロい髪留めでまとめている。
耳には拾ったり交換して手に入れた不揃いなピアスやイヤーカフが付いており、その耳は冷たい風が街々の間を通り抜ける音を捉えていた。
「残り、78900エセリウムか……」
とエルトゥーダは呟く。
今、呟いた額は近くにある都会の市場に新規参入をするために必要な額だ。
100000エセリウムという大金がないと都会で商売はおろかその都市に住むことも就職活動も許されない。
因みに、この貧民街の市場の新規参入権は20000エセリウムなので、ここの市場なら今すぐにでも新規参入権は買える。
だが、こんな論外の街で商売なんて、今と対して変わらない生活が待っているので却下だ。
現在の貯金が今回の18200エセリウムを入れて21100エセリウムあり、100000エセリウムに達するには後78900エセリウムが必要。
しかし生活費、家賃、食費を考慮すると、78900エセリウムを集める頃には、今の金なんて消し飛ぶ。
ダメもとだが何回も、都会で雇ってくれる場所も探した。
しかし、誰も雇ってくれなかった。
決まりだとか、汚ねぇとか、貧民街の住民だからだとかまぁバリエーション豊かに断られてきた。
「はぁ……クソ……」
そんなことを考えているといつの間にか自宅であるボロい賃貸の前にたどり着いていた。
薄汚れた壁と剥がれかけたペンキが、その建物の年季を物語っている。
低く垂れ下がった屋根の下にある木製の扉は、見るからに頼りない。
ポケットから鍵を取り出し、錆びた鍵穴に差し込もうとすると、鍵がすでに掛かっていなかったことに気づいた。
心臓が一瞬、鼓動を強く打つ。
なぜ鍵を掛け忘れたのか、その理由が思い出せないまま、背筋に冷たいものが走る。
恐る恐る、ゆっくりと扉を押し開けた。
軋む音とともに扉が開き、暗闇の中に足を踏み入れる。
薄明かりが差し込む狭い玄関には、相変わらず埃っぽい空気が漂っている。
かすかな月明かりが窓から差し込み、室内の輪郭とともに地面に寝そべっている銀髪の幼女の姿がぼんやりと浮かび上がる。
第2話も読んでくださり、本当にありがとうございます。
次の話で銀髪ロリが出るので気になる方は、★評価とフォローをお願いします。
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