こちら空中蒸気船都市国家住みですが。

レッサー

第一章∶ブラックハット編

第1話 犯罪者

「……は?」

「むにゃ……むにゃ……」

 家に帰ったら、不法侵入して床に眠っている銀髪の幼女がいた。



 魔法災害とは、生活基盤を支える環境に魔熱量マナが過剰に溢れ出し、その空間が汚染される現象である。


 魔法災害により、人類の居住区であった地上は汚染されていき人口は凄まじい勢いで減っていった。

 人類滅亡を防ぐために人類は知恵を絞り、技術を集結し巨大な空中蒸気船都市国家JUDを作り出した。


 JUDは数多くの蒸気エンジンと魔法の力で空中を安定して浮かび移動することが可能であり汚染された地上から離れることが可能となった。

 つまり人類は青い空を新たな大地として選んだということだ。


 JUDの中心にあるのは、都市国家の心臓ともいえる超巨大市場都市であり、そこでは統一通貨として導入された『エセリウム』が使われている。

 市場はまるで迷宮のように入り組み、数え切れないほどの屋台が立ち並んでおり、香辛料の強い香りが風に乗り、鮮やかな布地や宝石が太陽の光を受けて煌めく。

 魔法の力を帯びた商品が所狭しと並び、蒸気で動く機械仕掛けの玩具や用具も多い。

 商談が行われるテーブルには高級ワインが注がれて華やかな花々が飾られる。

 というのは、僕が住んでいる市場都市の話ではない。

 というかJUDの4割は僕がいるような市場都市だ。

 僕がいる貧民街の市場は質素そのもの。

 屋台は錆びついて、衣服は粗末で日用品も簡素なもの、商人たちの身なりも地味。

 しかしもこんなボロい市場でも新規参入をするには初期投資が必要で、自治体によっては特定の商品を販売するにはライセンスが必要。

 その上貧民街の市場都市は重労働で長時間労働で超低賃金が当たり前。

 さらに貧民街の市場都市は餓死、過労死、衰弱死、病死、殺人、強盗、強姦が日常茶飯事。

 ハエが集った死体や骨が浮き出た赤子や子供が道端に捨てられているのも全然珍しくない。

 

 こんなクソみたいな状況は解消されることもなく貧富の格差はどんどん広がっていく。


 そんな厳しい状況で、僕はどうやって金を稼いでいるか、それは……


 僕がに出会う数時間前

 夜の闇が深く吹き込む街角で殴打の音が響く。

「おい! いつまでも殴ってんじゃねぇ! 治安維持隊が近くに来てる! さっさと財布を取れ!」

 とエルトゥーダがいつまでも相手を殴っているユキオに忠告する

 ユキオに殴られている相手の血は地面に滲み、冷たい石畳に赤黒い染みを作っていた。

「ちっ! わかったよ!」

 とユキオは呟き、拳を止める。

 リンチされた平民の男はうめき声を上げ、かすかな命の灯を残して倒れている。

 ユキオは素早く男の懐に手を入れ、財布を取り出す。

「いい厚みだぜ」

「おいッ! お前ら何やってるッ!!」突然、治安維持隊の怒鳴り声が響き渡る。

「ぐ! 治安が来た!! 逃げるぞッ!!」

 とエルトゥーダが叫ぶ。

 その声に反応して、仲間達は反射的に動き出した。

 心臓が激しく鼓動し、鼓動の音が耳元で響く。

 アドレナリンが全身に駆け巡り、地面を蹴る力が増す。

 石畳を踏みしめる足音が響き渡り、夜の静寂を打ち破る。

 靴底が石に擦れる音と、呼吸の荒さが混じり合う。

 僕たちの足音に混じって、背後から迫る治安維持隊の足音が次第に大きくなる。

 その音はまるで死神の鎌が迫るような不気味な音で、背筋に冷たい汗が流れる。


 暗闇の中、路地を曲がり、影に紛れて逃げる。

 街灯の薄明かりが僕たちの姿を一瞬だけ浮かび上がらせ、その後再び闇に消える。

 高い塀や積み上げられた木箱を飛び越え、僕たちは必死に前へ進む。


 呼吸はどんどん荒くなり、肺が焼けるような痛みを感じる。


「急げ、こっちだ!」とハザマという仲間が叫び、僕たちはさらに狭い路地へと飛び込む。


 僕がこの貧民街で生き残るための方法。

 それは平民を対象とした強盗グループに参加し、金を奪うというものだった。



 第1話を読んでくださり、ありがとうございます。

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