ピンク色の薔薇
青色の薔薇
あれから一年経った。一年が経ってしまった。
僕は先輩に宣言した通り生徒会長になった。晴川先生の協力もあって、屋上開放を達成できた。僕が必死でこの偉業を達成した理由は、僕だけが知っていればいい。
でも、彼女はいなくなった。いたらきっと
「生徒会長になって屋上開放!? すごいじゃん! 開青くん! すごいよ! ありがとう!」
と、ひまわりみたいな笑顔を見せてくれたと思う。
信じたくない。けれど彼女はいなくなった。毎日屋上を歩いているけれど、春花先輩は屋上から完全に姿を消したことがわかった。隠れているんじゃないかと思ってひたすら探した。
けれどいない。彼女がいたという証拠は、嫉妬するほどに笑いながら僕が一人踊っている動画だけになってしまった。彼女がどうなったのか、もう僕には分からない。
でも、きっといつ春花先輩が戻ってきても、もう寂しくない。空の屋上は僕が消した。空の下の屋上は、いつも生徒で賑わっているから。
今日、また夜空を大輪の花が彩る。
さっき、横田さんが幸せそうに、彼氏と二人で花火を見ようとしているのを見かけた。僕は今年も独りで見る予定だ。
ただ、少しの奇跡を期待していた。叶うはずのない、また春花先輩がふわふわ浮いて驚かしてくれるような奇跡を。
「花火が打ち上がる五分前でーす!!!」
実行委員が大声で報告する。屋上は人でごった返していた。
「開青くん!」
ふと、春花先輩の声が聞こえてきた。もしかしたら、と思って上を向いても、誰もいない。幻聴だとしても嬉しかった。
「開青くん!! ちょっと!! ようこそ!!!お越しくださいました!!!」
雑踏から、一際大きな声が聞こえた。思わず振り向く。
そこには、腕も足も記憶より細くて、少し痩せている、でも紛れもなく春花先輩が、セントセシリアの髪飾りをつけて自分の足で立っていた。
「あれ? 私がようこそお越しくだされましたかな?」
相変わらず素っ頓狂なことを言う。間違いなく春花先輩だ。
「って、うわ! 急にやめてよ〜。私めっちゃ筋肉落ちてるんだから」
自分を抑えきれず、春花先輩を抱きしめる。死人のような冷たさは、もうどこにも無かった。強く早い心臓の鼓動を感じる。
「去年は、ごめんね。私、去年のこの日に起きたんだ。きっと私の心も身体も、君が満たしてくれたんだよ。だから、空の身体に戻って来れたんじゃないかな」
フェンスの上で可憐に笑っていた先輩は、地に足をつけて可憐に笑っていた。僕は今、自分がどんな顔をしているかわからない。
「リハビリに一年かかって、色んな人に駄々を捏ねて、今日来たんだよ。君とのこと、全部全部、覚えてる。だからね、これをあげようと思って」
春花先輩は空の色をした青い薔薇のネクタイピンを僕に取り付けた。確か花言葉は『奇跡』。
「生徒会長になって屋上を解放したんだって? すごいじゃん。これはご褒美だよ。ずっとずっと、ありがとね」
去年、僕に見せたひまわりのような笑顔と同じ顔をしている。こんな奇跡あってもいいのか。
「こんな奇跡あってもいいの? って顔してるね。ハッピーエンドならなんでもいいんだよ。もしかしたら、いつかこの話が映画になるかもね」
春花先輩は相変わらず僕の心を読む。本当に目の前にいる人は春花先輩なんだ。
「先輩、僕、医者になることにしたんです。ありがちだけど、あなたのような人を治したいと思って。なりたいものを見つけたんです。あなたのおかげなんです。色んなことを、話したい。また、一緒に踊りたい……!」
「いいよいいよ。時間はたっぷりあるんだ。全部やろう。ずっと一緒にいてくれるんでしょ?」
意地悪で愛しい笑みをニヤリと作った。僕も反撃をする。
「空っぽな心を埋めたのは誰でしたっけ?」
どうやら仕返しは成功したようで、顔を赤くして俯いてしまった。
「私ね、実はね、横田さんに嫉妬してたの。君が断ってくれた時、ちょっと安心しちゃった。それでね、」
「待ってください。それは僕が三年前から言いたかったことなんです」
「花火が打ち上がりまーす!三!二!!」
打ち上がると同時に、僕は打ち明ける。
夜空の屋上で、盛大に
「ずっと好きでした! 付き合ってください!」
花火よりも大きな声で言ってやった。
春花先輩は、赤い血が通る熱い唇で、僕に勢いよくキスをした。
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