第3話 呪いと異能

「実は、聞きしたい事が有るん、です」

 

 スプーンを片手に、ガブリエルさんは真剣な目を私に向けた。

 

「聞きたい事……?」

 

 なんだろう。私が知ってる事なんてほとんど無いのだけど……。

 この辺りのことならある程度は答えられるかな。逆に言えば、それだけだけど……。

 

「アンタ……シャーロットさん、は……呪いを解く力とか、持ってたりするんですか?」

 

「呪い……?」

 

 どうしよう。想定外すぎる質問だわ。

 私の異能は存在そのものが呪いみたいなものだし……。

 

「昨日、僕の事を眠らせただろう? それはキミの力なのかって、聞いてる。……聞いてます」

 

「あっえっと、それは! その……ごめんなさい」

 

 あぁ……やっぱり気味悪いわよね。何も言わないから気付いてないのかなとか、都合良いように何も考えないようにしちゃってた。

 怒ってるかなぁ。でもご飯食べてくれたし、嫌われたくない。

 多分もうこれから先会うことは無いだろうけど、だからこそ!

 

「やっぱり……! 謝らないで。お礼を言いに来たんだ!」

 

「え?」

 

 お礼? なんのお礼?

 無理矢理眠らせたのにお礼って……。


 ガブリエルさんは興奮した様子で話始める。

 

「その……移るようなものじゃないから、心配しないでほしいんだけど、僕、小さい頃に呪われてね。眠る事ができない・・・・んだ」


「それって……」

 

「そう。昨日、呪われて初めて眠れたんだ! ありがとう、シャーロットさん!」

 

 ガブリエルさんはキラキラした目をしてる。

 本当に嬉しそうな目。

 

 眠る事ができないって、そう言われたら納得がいくような顔色をしてる。

 殴られたみたいに目の周りが真っ黒なんだもの。

 

「あ……ごめんなさい。馴れ馴れしく……」

 

「だ、大丈夫です! でも、そっか……えへへ。私の力が役に立ったみたいで、嬉しいです」

 

 今まで苦しかっただろうな。

 私も、寒い夜とか暑すぎる夜とか、悲しいことがあった日とか、眠れなくて辛かった事は何回か有った。

 

 それが毎日続くなんて……しかも、小さい時からって言ってた。

 私だったら耐えられない。

 

「そのお礼を言いに来たんですけど……それと……」

 

「それと?」

 

「……もし、もしもだけど、これから、時々ここで眠らせてほしいって言ったら、迷惑……ですか?」

 

「!」

 

 恐る恐るって様子でガブリエルさんは聞いた。

 断られると思ってるのかな。

 でも、でも! 私には嬉しいお願いだ!

 だって、一緒に眠ってくれる人、私は欲しかったのだから!

 

「迷惑じゃないです! むしろ、嬉しい」

 

 人は嬉しい時、手を握ったりするって本で見た事が有る。

 この異能が無かったら手を握ってたくらい、嬉しい!

 

 だから素直に嬉しいって言ったらガブリエルさんは笑った。

 ぱあって。嬉しそうに。

 

「ありがとう……! シャーロットさん!」

 

「シャーロットだと長いでしょう? ロッティで良いですよ。昔はそう呼ばれていたんです」


 お母さんが生きてて、お父さんも生きていた頃の話。

 懐かしいな。もうすっかりロッティだなんて呼ばれなくなっちゃった。

 

「ロッティ……あ、なら、僕はガブって、呼ばれてる。ガブで良いよ。……良いですよ」

 

「ふふっ、無理して敬語を使わなくて良いんですよ」

 

「あぁう……慣れてなくて、ごめんなさい……」

 

 しゅんとするガブリエルさん……ガブで良いのかしら。

 これから一緒に眠ってくれるかもしれない人!

 

 本当に嬉しい。心の底から!

 

「今日は、外泊許可を取れていなくて。……というか、昨日も本当はダメだったから……帰ります。また許可が取れたら来ても良いかな」

 

「はい! ぜひ! いつでも来てくださいな」

 

 残念そうな顔をしている。

 そうよね。せっかく眠れると思ったのに。

 

 可哀想だけど私にしてあげられる事は無い。

 

「じゃあ、また来るね。ご飯美味しかった。ありがとう」

 

「はい! えっと……またいつか」

 

 こんな時どんな挨拶をするのがいいのかな。明日本で調べよう!

 

 食べ終わったお皿を片付けて、玄関までガブを見送った。

 

「それじゃあ」

 

「はい」

 

 ガブが去って、扉が閉まる。

 いつもの私だけのお家。

 

 なのにとっても静かで寂しく感じる。

 

 次に会えるのはいつになるかな。

 そもそも、来てくれるのかな。

 

 ……あれ、何か忘れているような……?

 

「あっ! アミュレット! 返すの忘れてた!」

 

 これを取りにガブがまた来てくれるって、信じよう。

 次は忘れないように、アミュレットを机の上に置く。

 

 寝支度をして、寂しいベッドに1人で潜り込んだ。

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