不可解な思い出

もうずいぶん前の話になるが。

学生の時は、カラオケ屋で夜勤のアルバイトをしていた。


ある夏の日のこと。


いつものように仕事を終え、自宅に帰ろうと、我が愛車レッツゴー号(自転車)をこぎ始める。


お店のクローズはAM3時だったと記憶しているが、その日は割とお客さんの引きが遅かったため、既に時刻は午前4時を回っていた。


夏は夜が短い。


外は既に明るくなりはじめている。

しかし小雨がぱらつきはじめた。


自転車で家まで10分ほどかかるのだが

仕事終わりの夏の日の小雨は、逆に気持ちが良い。


「本降りにならなきゃいいや・・・。」と天然シャワーを浴びながらたらたら帰途を走る。


雨はシタシタと降っている。

が、街は静かである。


既に明るいといえど、さすがにこの時間ではまだ歩行者もおらず、街もまだ眠っているようだ。


トロトロと自転車をこぎ、踏切を超え住宅街の路地に入ってふと前をみると目に入ったものがあった。


赤い三輪車に子供が乗って向かってくるのである。


なんだ、子供か・・・と一瞬納得しかけたのだが、即座にもう一人の自分がツッコミをいれる。


「コンナジカンニ、サンリンシャニノッタ、コドモガイルカ???」


街は依然静かである。

雨もシタシタと降っている。


常識で考えて、居るわけが無い。


ひとつの可能性を考えた。


近くに親が居るのでは?


が、残念ながらその道は直線で、目に見える範囲にはその子供しか居ない。


そうこうする間にどんどん私のほうへ向かってくる。

近づくにつれ、子供の顔もはっきり見えてきた。

めちゃくちゃ笑顔で走っているのだ。


状況が異なれば


「ああ、楽しそうに三輪車に乗っている子供だなあ、。」と微笑ましい光景なのであるが。


人間は不思議なもので、彼の満面の笑顔をよそに、私の心臓は16ビートを刻み始めた。


明らかに自分の中の何かが警戒信号を発している。


このままいくと鉢合わせになる。


ご機嫌ボーイはぐんぐんと近づいてくる。


私はありとあらゆる妄想、想像を逞しく働かせて硬直してしまっていたが、そんな私の真横を笑顔のまま颯爽とすれ違った。 


そして、そのまま私の後方へ去っていく。


「もし振り返って消えていたら・・・」と悪い想像を働かせつつ、気力を振り絞り振り返ってみる。


と、次の角を高速でカーブして去っていくところであった。


一応彼が実在していることは証明された(?)が、私の鼓動は依然として早鐘を打ったままである。


私はその姿を見届けた後、全速力で疾走し帰宅した。


あれは、なんだったんだろう。


ずいぶん前の出来事であるが、子を持つ親となってひとつ分かったのは、というかわかりきっている事であるのだが、


「朝4時に子供を一人で外出させることはない」ってことだ。


その可能性も捨てきれなかったのだが。

というか、そうであって欲しかったのだが。

やはり、ありえない。


あれは、なんだったんだろう・・・。

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