モツ煮ノスタルジー

大学生の頃はスキーサークルに入っていた。


サークルと言っても結構真面目なサークル。


顧問の先生もついており、「部活」ではないものの所謂「準体育会系」のサークルだったので、年間トータルすると40日くらいは山に籠ってスキーをしていたものだ。


長期間「山に籠る」ことはそれなりにお金がかかる。記憶が定かではないが年間で40万円くらいかかっていたように思う。

よってシーズンオフの春先から秋の終わりまではバイト三昧。

ひたすら金を稼いで冬に全て放出する。

そして春にはすっからかんという、

ドラクエ的に言うならば毎年マダンテを唱えているような生活をしていた。


同期や先輩たちも同じような生活を基本的には送っていたのではないか思う。が、今思えば割と家庭に余裕がある人たちが多かったのかもしれない。

大してバイトをしているそぶりもなく、サークルの合宿以外に個人的にスクールに通っている人や。道具を頻繁に買い替えている人もいた。


一方で私は活動費を全て自身で捻出している、言わばガチ勢。

とにかく毎日お金は切り詰めなくてはならない貧乏学生生活を送っていた。


極論、サークルをやめてしまえば学生にしては相当な貯金もあったのであるが、あまりそのような発想が無かったのはなんだかんだ充実していたのだろう。

その証拠に今だに当時の仲間とは繋がりがあるのは幸せなことだと思う。


その貧乏学生当時。

サークルのスキー合宿は冬と春があった。

冬は2週間程度泊まり込みでスキーをするのだが、春は4週間。


その4週間がなかなかの難関であった。


宿泊先は民宿だったので、朝、晩の食事はもちろん出る。

この費用は事前に払った宿泊費に含まれているので安心。

更にはとても美味しい食事であったのでガッツリ食べる。

しかしながら雪山をアホみたいに朝から晩まで滑走すれば、新陳代謝の全盛期で燃費が60年代のアメ車並に悪い大学生はどうしたってすぐに腹が減る。


となると、問題は昼食。

毎日昼間はコースの途中のロッヂで「自腹で」食べなくてはならない。


ご多分に漏れず、スキー場の食事はどれも高い。。


そこで毎日コストパフォーマンスという要素だけで食べていたのは「モツ煮とライス大盛り」だった。


私は関東圏の生まれであるし、少なくとも実家でもつ煮やもつ鍋が食卓に上がった記憶はない。たぶん初めてモツというものを食べたのはその時だったように思う。


最初は恐々食べた記憶があるが、食べてみるととても美味しく、ライス大盛りで腹持ちが良い。こりゃいいメニューを見つけたということで量とコストを鑑みてストイックに食べていた。


しかしながら美味しいとはいえ、毎日だと流石に飽きてくるものの他の高額メニューに手を出す余裕はない。


ので、閃いた。


味変すれば良いのでは?と。


そのロッジには各テーブルに色々な調味料が置いてある。

中でも気に入ったのは「粉チーズ」

味噌味のモツ煮に粉チーズというのは今現在でもあまり馴染みのない組み合わせであるが、かなり美味しい。

なんとか「チーズモツ煮ライス」で合宿を乗り切ったものだ。


それからかなりの年月が経ち。


今日、夕飯にモツ煮を作った。

私はちょこちょこ料理をするのであるが、モツ煮を作るのは初めてである。


大学を卒業してかなりの年月がたち、モツ煮を色々なところで食べる機会はあったけれど。

粉チーズをかけて食べることはなかった。

というより、モツ煮を食べる環境に粉チーズが置いてあるところがないせいかもしれないが。


今日、ふと思い出して、自分で作ったモツ煮込に粉チーズをかけて食べる。


味覚と記憶というのは不思議なもので、その瞬間大学時代の記憶が色々よみがえった。


のでこうしてツラツラ書いてみたりしている。



少しノスタルジックな気分になり、大好物であるモツ煮に無心で突進して食べている息子に、粉チーズのトッピングを勧めた。


食べて一言。


「美味いけど別に相乗効果はないね」


冷静。勧めなきゃよかった。。


でも、美味しいんだよ、ほんと。






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