第2話


 一言に「飲食店」と言っても、色々とあると思う。レストランとかカフェとか……後は居酒屋などなど。


 そして私が働いているのは「カフェ」で、一階はカフェになっていて二階はバーという形になっている。


 朝早くからモーニングも出しているし、お昼はランチ。夜はディナーも出していて特にランチは大人気で休日は売り切れになってしまう事もあるほどだ。


 そして二階にあるバーはアルバイト先のマスター息子さんが最近始めたばかりのお店。


 ちなみに、お店のスペースはそんなに広くなく、店長である息子さん以外に従業員は息子さんの古くからの友人の二人。


 息子さん曰く「なんて言うか……俺たちは昔から付き合いがあるから昔話とか分かるけどさ。いきなり入って来た子は分からないだろうしさ。かえって気を遣わせそうだろ?」との事。


 要するに昔からの友達がお店を開いたから手伝っている……みたいな感じらしい。


 ちなみにこのバーが出来た事によって一階でディナーを楽しんだお客が二階に行く事も結構多いらしく、なんだかんだ良い相乗効果がある様だ。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「こんばんはー」


 そうこうしている内にアルバイト先に着き、従業員が使っているカフェの裏口のドアを開きつつ、挨拶をすると……。


「おお、未麗」


 厨房からヒョコッと笑顔で顔を出したのは人当たりの良さそうな中年の男性。この人がこのお店のマスターである。


 よく「カフェと言えば」で連想されるようなダンディな男性ではなく、どちらかというと、ラーメン屋とか飲食店にいる様な雰囲気の気さくな人である。


「こんばんは。マスター」


 休日のランチ時は今ある席が全て埋まって待ち時間が発生する事もあるけど、平日は基本的にお客の流れは穏やかで、マスター以外にアルバイトが二人かいれば十分手が回るくらいだ。


 大きなレストランやチェーン店ではありえない話かも知れない。


 でも、そもそもこのカフェがある場所が駅から歩いて十分ほどという良い立地条件でありながらちょっと細い道に入らないといけないため、知る人ぞ知るというお店になっている。


 そんな小さなお店にたくさんの従業員はかえって給料の支払いなどの面からいらないらしい。


 簡単に言えば「地域密着型」と言えば分かりやすいかも知れない。


「そういえば、今日からですよね。新しいアルバイトの人が来るの」


 そう言うと、マスターは「ああ、そうそう」と頷く。


 ランチの時間は午後の三時までで、その後は通常メニューやデザート。後はドリンクのみの提供となっている。


 ちなみにディナーの提供は午後の六時からだ。


 まぁ、そもそも地域密着型だから平日のそんな時間に来る人は大抵知り合いばかりでマスターだけでも回るらしく、アルバイトはいない形になっていて、。そして私の様なアルバイトが来るのは大体午後の五時頃だ。


 ただ、学校の時間割によって間に合いそうにない時があるからそこら辺は上手く調整してもらっているのだけど。


「まぁまだ来ていないけどな」

「あ、そうなんですね。ちなみに……どんな人なんですか?」


「どんな……。うーん、僕が面接した感じ大人しそう……というより、お淑やかって言葉が似合いそうな子だったね」

「へぇ」


 マスターの言葉を聞いて何となくパッと私の脳裏に思い浮かんだのは長い黒髪のキレイな女性だった。


 これは完全に私の偏見だけど……。


 そしてそれと同時に思い起こされたのは小さい頃。よく一緒に遊んでいた男の子のお姉さんの姿――。


「……」


 私とは五歳も離れていなかったのに、お転婆でじっとしていられなかった私とは違っていつも優しくて……それでいてお姉さんの同い年の子たちと比べて静かでお淑やかだった彼女は当時の私の憧れでもあった。


「どうかしたかい?」

「え」


「ボーッとしていた様に見えてね」

「あ、はは。すみません。学校に行って疲れたのかも知れません」


「ああ。入学して結構経つからね。そろそろ疲れが出始める頃か」

「はは」


 そんなマスターに便乗して「そうかも知れません」なんて言って上手く誤魔化した……と思う。


「まぁ無理はしないようにな」

「はい、ありがとうございます」


 なんてマスターと会話をしていると……。


「し、失礼致します」


 裏口のドアを軽くノックする音と共に女性の小さな声が聞こえ、私とマスターが振り返ると……。


「え。樹里亜……さん?」

「み、未麗……ちゃん?」


 そこには私が連想したイメージ通りの人……というより、ついさっき連想した「その人」が立っていた――。

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