第12話

「あづい……!」

「ひからびる……!」


 時間は流れ、十日後。

 僕たちは次の秘境『ガノ砂漠』に辿り着いていた。


「ついさっき入ったばっかりなんだけど」


 子供二人が暑いと騒ぎ出したのは、砂漠に入ってから数分後の事だった。

 確かに日差しが強いけど、そこまで音を上げる程の暑さじゃないだろう。


『ちょっと! ここから出しなさいよ! あの子たちに日陰を作ってあげなきゃ!』

「シルヴァ、君はちょっと前まで森の精霊だったんだよ? こんな砂漠で実体化したら、一瞬でカラカラに干からびちゃうって」

『ぐぬぬ……!』


 自然界──もとい精霊には、相性というものが存在する。

 水の精霊や森の精霊は、こういう乾いた場所では存在を維持できない。

 逆に前回の湖なんかでは、火の精霊や土の精霊は存在を維持できなくなる。

 前にちょっと話した、精霊が生まれた場所から離れると消えてしまうというのも、この相性が大部分を占めていたりする。


「確かに、シルヴァは僕と契約したことで新しい精霊になったけど、本質までは変わってない。つまり、極端に相性の悪い土地での活動は禁止……いいね?」

『むぐぅ……!!!』


 森の精霊の弱点は、乾燥・寒冷・火炎あたりか。今回の砂漠はもちろん、雪山、火山地帯なんかでの実体化は禁止だな。


「というか、たぶん暑いのってその服のせいだよね」

「ふ?」

「く?」


 首元に暖かそうなモフモフが付いたファーコート。気温の高い砂漠でそんなもの着てたら、そりゃ暑くなるってもんよ。


「脱いじゃいなよ、それ。脱いだやつは持っててあげるからさ」

『信じらんない! この変態!!!』

「シルヴァはちょっと黙っててねー」


 だから僕には妻がいるって言ってるだろうが。そもそも、こんなロリータ達は恋愛の対象外だ。

 というか、服を脱がそうとするだけで『そういう発想』に至るシルヴァの方が変態なんじゃ?


「ぬぐ……?」

「ぬぐってどうやる……?」

「え? そりゃこうやって……あ、そっか」


 もしかしたら、この子達の服は鱗が変化したものなのかもしれない。あのドジっ子神様がやりそうな事だ。

 こっちの方が効率的ですので、なんて言ってドヤ顔してる姿が目に浮かぶ。


「脱ぐより変化させたほうがいいか……じゃあ、イメージしてみて」


 風の通る、涼しい服装……となると、シルヴァみたいなワンピースとか良いかもしれない。

 陽射しが心配だけど、そこは『原初の生命体の欠片』だ。余った鱗で日傘でも作ってもらおう。


「シルヴァお姉ちゃんみたいな服になれーって念じるんだ。更に、こんな傘もあると陽射しを防ぎやすいぞ」


 リュックの中から普通の雨傘を取り出し、広げて見せる。


「ふく……かさ……」

「おねぇちゃんみたいな……」


 次の瞬間、二人の服は勢いよく流動し、見慣れた形状のワンピースに変化した。

 ムゥは黒、イアは青。

 おまけに、その手には小さな日傘。あっという間にクソガキからどこぞのご令嬢へ早変わりだ。


「おー、できた!」

「すずしい……」


 こうして着飾ってみると、幼女ながら整った顔つきをしているのが分かる。将来は美人になるだろう──決して成長はしてほしくないが。


「よし、これで問題ナシだね」


 そう思っていた。


「──────ッ!!!」


 そう思っていた矢先、砂の中からバケモノが飛び出してきた。

 ミミズみたいな頭に、円状に生え揃った鋭い牙──超巨大なサンドワームだ。


「ちょっ……!」

「わー」

「でっかー」


 突然のこと過ぎて対処できなかった。

 魔法を発動する暇もなかった。

 二人が、喰われる。


「──え」


 そう思っていたら。


「──────ッッッ!?!?!?」


 突如として、サンドワームが吹き飛んだ。

 風に巻かれ、遥か彼方にブッ飛んでいく。


「おやおや、いつの間に子を持つようになったんじゃ──レーナよ」

「げ」


 砂塵の向こうで声がする。

 だいぶ前の生で死ぬほど──文字通り死にかけるくらい──聞き続けた声だ。


「はぁ……女の子になってた時の名前は、いい加減忘れてくださいよ──ステラ師匠」

 

 砂塵が収束し、お互いの姿が見えてくる。

 そこには、一人の老人が立っていた。


「ホッホッホ、まだまだ修行が足りんなぁ。どれ、またワシが鍛えてやろうかの」

「結構です」


 何故か、パンツ一丁で。


「あと服を着てください、師匠」


 数百年ぶりの邂逅は、かなりブッ飛んだ状況からスタートしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら必ず会いに来ると誓った不老不死の妻が、三千年経っても会いに来ない件 九龍城砦 @kuuronn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る