第11話

「さてと、じゃあ今度こそ次の秘境に行こうか」


 なんか地面をゴロゴロ転がってる神様は放って置いて、出発の準備を始める。

 準備と言っても、靴を履いてリュックを背負うだけなんだけど。


「シルヴァは魔石で……そこの二人はリュックの中にでも入ってもらおうかな」

「ふん」

「めいれいちゅるな」

「保護者の言うことは聴いてくださ〜い」

「「むぎゅ」」


 そっぽ向いて駄々こねてる子供二人を、無理やりリュックに押し込む。収納魔法のお陰で中は見た目以上に広くなってるし、このくらいなら余裕で入るのだ。

 それにしても、どっちも見た目と精神が年相応というか、かなり子供っぽい感じがする。角や尻尾が付いてなきゃ、だれもこの子達を不老不死の欠片だとは思わないだろう。

 一生そのまま、決して成長しないことを祈る。


「じゃあまたね、神様」

「え、ちょっ」


 三人を収納して、僕は崖際から飛び降りた。重力に従って、結構なスピードで身体が落下していく。


「お別れが早すぎませんか〜〜〜!?」


 上空から神様の泣き声が聴こえてきたが、もう飛び降りてしまったものはしょうがない。

 また会う日を楽しみにしていてくれ。


『着地のこと考えてるんでしょうね』

「でしょうねー」

「ねー」

「まぁね」


 じゃなきゃ、こんな自殺じみた真似はしない。というか、ムゥとイアは危ないから顔しまってなさい。

 どんどん迫ってくる地面に向けて、僕は指先を向けた。


「新しい魔法のお披露目だ」


 大地よ、隆起せよエザフォス


「よっと」


 土に魔法をかけ、勢いよく変形させる。

 その形状はまるで、土でできた超巨大な滑り台だ。


「でも、ただの滑り台じゃないよ」


 カーブさせたり、ループさせたり、めちゃくちゃ複雑なルートを描かせている。これには子供たちも大盛り上がりだ。

 こうでもしないと、落下の勢いを殺し切ることが出来ないからね。しょうがないね。


「しっかり掴まってるように!」

「きゃー!」

「はや〜い!」


 全身を風で包んで、ある程度の摩擦を軽減。

 これで準備は万端だ。


「ぎゅーん! ぎゅわーん!」

「めがまわる〜!」


 かなりのスピードで、僕たちは土製の滑り台を滑っていく。

 時折上昇する工程を挟む事で、緩やかに落下速度の減少に成功したわけだ。


「よい、しょっと……ふぅ、無事着地できたね」

「あはははー! たのしかったー!」

「せかいがぐるぐるちてるぅ……」


 リュックから顔だけを覗かせ、声たかだかに笑うムゥ。同じく、リュックから顔だけを覗かせ、ぐるぐると目を回しているイア。

 どっちもだいぶ余裕そうだ。あの拷問じみた滑り台を滑りきってケロッとしているあたり、やっぱり人間の子供じゃないなと再確認する。


『し、死ぬかと思ったわ……』

「それが普通の反応だよ」


 魔石の中に居ても、周囲の状況はある程度拾えてしまう。

 今回はそれがよろしくなかったらしい。シルヴァが一番ダメージ食らってるみたいだ。


『中と外のリンクを切る方法とか無いの……?』

「僕と繋がって世界に存在してる以上、ちょっと無理かな。神様ならできたかもだけど」

『今すぐ戻るわよ……』

「いや、戻んないって」


 どんだけ苦手なんだよ。


「神様ってのは気まぐれだから、もう居なくなってると思うけどね」

『ぐむむ……』


 あいつもあれで結構忙しい身だからな。世界の創造と生命の繁栄、頑張ってくれ。


「というわけで、これから次の秘境『ガノ砂漠』を目指して出発します……準備はいいかな?」

「おー!」

「くらくら、ふわふわ……」


 リュックから飛び降り、元気に返事をするムゥ。そして、まだ目を回したままのイア。

 元がバハムートだから、高所での高速移動とかには慣れてるんだろうか。逆にこっちは、水中で生きてたリヴァイアサンだからか、空中は苦手みたいだな。


「さて、それじゃあ今日も元気に探して行こうか」

「さがすぞー!」

「なにをさがすの……?」


 そりゃあもちろん、究極に可愛い僕の妻をさ。

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