第2話

 不老不死の魔女、リクシル。


 僕の最初の生における、妻だった女性だ。自慢じゃないが、めちゃくちゃ可愛い。


 絹のような白い髪に、青空を思わせる蒼穹の瞳。

 目鼻立ちはパッチリしていて、美人というより愛され系。

 もちろんスタイルは抜群で、胸もかなり大きかった。


 そんな妻と最後に会ったのが、もう三千年も前である。

 

「どうしたの? そんなにじっと見つめて」

「いや」


 ゆっくりと、彼女の顔から視線を外す。

 もっと見ていたい。

 もっと触れたい。

 そんな想いが、心の内から湧いてくる。


「今日も可愛いなって、それだけ」

「え〜?」


 湖の畔を優雅に歩きながら、彼女は笑う。


 彼女の姿は、出会った時から変わらない。


 対する僕は、日に日に老いさらばえていく。

 

「そういうアナタも男前だぞっ☆」

「そうかな」


 毎朝起きては鏡を見てるけど、とてもそうは思えない。彼女の可愛さの前では、何もかもが釣り合っていないだろう。

 本当に、僕には勿体ないお嫁さんだ。


「……リクシル」

「なぁに?」

「……愛してるよ」

「へ?」


 彼女はキョトンとした顔でこちらを見つめる。

 大きく見開いた目が細まって、まるで猫みたいだ。


「もしかして……その身体、もう……」

「うん」


 そろそろ寿命みたいだ。

 自分の身体のことは、自分が一番よく分かる。


「…………」

「泣かないで、リクシル」

「泣いてないよ……」


 バレバレな嘘だ。

 彼女は普段こそ気丈に振る舞っているが、友人が死んだ日は夜通し泣き腫らしていた。


 寂しがり屋で、泣き虫で、甘えん坊。


 僕よりずっと長く生きている筈なのに、僕よりずっと子供っぽい彼女。

 そんな所に惹かれて結婚したのだから、僕も大概なんだけど。


「大丈夫」


 出会いと別れを繰り返す彼女。

 そんな彼女に、僕がしてあげられる事は何か。

 考え抜いた末に、僕が編み出したとっておきの魔法。


「僕と、僕が作り出した魔法を──信じて」

「…………!」


 涙でぐしゃぐしゃの顔で、リクシルは笑う。


「絶対! 絶対に見つけ出すから!」


 震える声で、彼女は告げる。


「女の子になっても! モンスターになっても! どんな姿になっちゃっても!!」


 声を枯らして、叫び続ける。


「私が絶対に!! 君を見つけ出してみせる!!」


 ああ、その言葉が聴けただけで。

 自分の人生に、価値はあったと思えるのだ。



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