転生したら必ず会いに来ると誓った不老不死の妻が、三千年経っても会いに来ない件

九龍城砦

第1話

 突然だが、皆は転生についてどのような印象を持っているだろうか。


 羨ましい? 自分も転生したい?


 まぁどうあれ、羨望の思いが強くなりがちだろう。なにしろ人生というのは一度きり。

 それが複数回体験できるのだから、羨ましくて当たり前だと思う。

 しかし、転生というのもメリットばかりじゃない。物事には、それ相応のデメリットが付き纏うものだ。


「おぅガキィ〜……イイ身なりしてんじゃねぇかよぉ〜」

「金貨もたっぷり持ってるんだろうなァ。ちょっとジャンプしてみろよ、キヒヒ!」

「俺たちに見つかったのが運の尽きだったな。大人しく身ぐるみ剥がされろ」


 例えば、転生したばかりの身体だと、年齢のせいでナメられやすい。

 コレばっかりはまぁ、仕方ないことだ。


「あの、通してください」


 肩に掛けたリュックの肩紐を直し、目の前の山賊もどき達に声をかけてみる。

 薄暗い森の中、子供一人に詰め寄る大人三人。どう考えても絶望的な状況だ──普通なら。


「そうはいかねぇなぁ〜」

「キヒヒ! お前状況が分かってねェのかァ?」

「さっさと金目の物を出せ、でなければ──」


 山賊もどきCが、手に持ったナイフを僕の首筋に当てる。ヒヤリとした金属の感触。そして、うっすら香る血の匂い。

 こいつら、初犯じゃないな。脅す様子も手慣れてるし、もう何人も殺してるんだろう。


「なら、手加減する理由もないか」

「あん? ガキィ、テメェ何言って──」


 風よ、薙ぎ払えアネモス


「ぶほぁっ!?」


 指先を向けていた山賊もどきAが、ものすごいスピードで後方にブッ飛んでいく。

 そしてそのまま木の幹に頭をぶつけ、しめやかに気絶した。ナムサン。


「なっ……!?」

「テメェ、このッ……!」


 遅い。


「ふんっ」

「ポギャッ!?」


 首筋に当てられたナイフを弾き、助走をつけて腹にドロップキックをお見舞いする。

 我ながら良いのが入ったな。山賊もどきBは悶絶して、その場にうずくまっていた。


「こ、このっ! クソガキがぁっ!」


 山賊もどきCが、怒声と共にナイフを振り上げる。

 いやいや、そのリーチでそんな大振りしちゃダメだろ。


(スジは良さそうなんだけどなぁ)


 それだけに残念だ。他の二人と違って、どことなく真面目っぽい感じがするのに。

 まぁ、なにか複雑な事情があるんだろう。

 この世界では、貴族だった奴が山賊に身を落とす事例もけっこう多い。


「くっ! このっ! くそぉ!」


 動作こそ大きいが、太刀筋はしっかりしている。この動き、バルグ流剣術か。

 やっぱりこいつ、元貴族なんじゃないか。


「だからって、容赦とかはしないけどな」

「ぐほぉっ!?」

「あっ」


 相手の体の芯を真正面に捉え、大地を踏みしめて正拳突きを放つ。その一撃は、寸分たがわず山賊もどきCの身体を撃ち抜いた。

 うん、それは良いのだが……ヒジョーに当たりどころが悪かった。身長差を計算に入れてなかったせいだな、スマンかった。


「ほ、ほぉぉぉ……!!!」

「いやごめん、マジごめん」


 股間を押さえてうずくまる山賊もどきC。その顔はこの上ない苦悶に満ちている。

 そこまでするつもりはなかったんだ、許して欲しい。これも自業自得って事で。


「ぐっ……! このっ、ガキ……! 覚えてろ、よぉ……!」

「あ、気絶した」


 やはり大の男といえど、金的には耐えられなかったようだ。次会う時にオカマになってないことを祈る。


「よい、しょっと。ふぅ、こんなもんでいいかな」


 気絶した三人をロープで縛り、木の上に吊るしておく。そして簡易的な光魔法のマーキングを施しておいた。

 これで、夜になったら誰かが見つけてくれるだろう。それまでそうやって反省してるといい。


「さてと、今日も元気に探そっかー」


 この森もハズレだったし、次はどこに行こうか。


「絶対に会いに行くよ──リクシル」


 決意を新たに、僕は最愛の妻の名を口にした。

 今日もまた、彼女を探す旅が始まる。

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