第83話 Better tomorrow(3)
この社長はとにかく『仕事』『仕事』で
連続して1週間も休むなんて、少なくとも自分が秘書になってからは一度もなかった。
連休さえなかった気がする。
「どうか、されたんですか・・」
驚いて思わず普通に聞いてしまった。
北都はふっと顔を上げて樺沢と視線を合わせ
「ウチのが。 たまには海外でも行きたいとか言うから。 真尋たちも今仕事でウイーンだから・・行ってみようかってことになって。 それだけだ、」
ちょっとだけ前に出た首がさらに前に出そうになった。
なんだか社長っぽくない理由な気がして。
家族のことはいつも二の次で
奥さんの話も
子供たちの話も
もちろん孫の話なんかも自分との会話で出ることもなく。
たまに社長宅に迎えに行くと、奥さんが甲斐甲斐しく社長の世話をして
微笑ましいなあ、と思うくらいで。
家族サービスとか。
奥さん孝行とか
するんだな・・
素直に驚いてしまった。
「なに?」
あまりに不審な顔をしていたらしく、うざったそうに聞き返され
「え? あ・・いえ!! で・・では。 3日くらいはお休みをいただけたら・・」
しどろもどろに言った。
「もっと休んでいいんじゃないか? 去年も夏休みなかったし。 冬休みだって。 おれが長期休暇を取るなんて今後あり得ないかもしれないぞ、」
大真面目な顔で言われて
本当にそんな気がした。
「ハハ! 確かにもう長期休暇なんかなさそやな!」
志藤はおかしそうに笑った。
「・・いいのかなァ。 真太郎さんたちは秋までNYだし。」
樺沢はまだ何かのドッキリなんじゃないかと信じられなかった。
「ま。 たぶんやけどな。 おまえが休みずらいやろから。 率先して休んだんと違うの?」
「え、」
「あの人はさあ。 ほんまわかりずらいから。 けっこうそうやってコソっと気を遣ったりするし。 でも決してそれを表に出さないから。 おれらだってめっちゃ社長に結婚反対されてさあ、今もおれには嫌味ばっかやけど。 ウチの子供たちの誕生日とか覚えててな、こっそり自宅にプレゼントとか送ってきてるらしいねん。 んで、社長に礼を言いにいくと『おまえにやったんじゃないだろう、』とか逆に怒られたりして。 意味わからへん、」
志藤はおかしそうに笑った。
おれのことを
思って??
樺沢はソバの箸が止まるほど感動してしまった。
「とか言って。 フツーに奥さんにねだられて行くだけかもしれへんで。 あの人ほんま奥さんにぞっこんやからな~。」
志藤の言葉も有頂天の樺沢には届いていなかった・・
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