第82話 Better tomorrow(2)

こうしてバタバタと夏休みに突入し



樺沢は前日どんなに遅くなっても6時には起きて暖人の弁当の仕度をした。



「お父さん、パンやけたよ~~。」



暖人も朝食の仕度を手伝ってくれるようになった。



「スープは熱いから気をつけろよ、」



「うん、」



夏休みと言っても



社長秘書にとっては関係なく



毎日忙しく、暖人をどこかに連れてってやることもできなかった。



秋に出資している映画会社との共同制作の映画の制作発表がある



その準備に追われていた。




「動物園とか水族館くらいやったら連れてったろーか? ウチもゆうこがまだ涼太郎を連れて歩けへんから、休みはおれがひなたとななみを見てるし。 ひとり増えても一緒や、」



志藤がそんな樺沢を見かねて言った。




「なんか・・それも情けないっつーか。 子供を他人に遊びに連れて行ってもらわないとなんないってのが。」



「失礼やな。 せっかく言ってやったのに、」



志藤はムッとした。



「いや、おれが連れてってやんないと意味ないし。 絵日記を3枚描いて来いって宿題があるらしいんだよ。 人に連れてってもらったとか、不憫すぎるじゃん。 ウチの実家も年中無休で忙しいしさあ・・」


「姐さんは?」



「・・その日記がだよ? もし教室の中とかに貼られたりして。 その香織の存在がこんなに曖昧なのに、暖人がどう思われるかと思うと、」



「またそれか。 もういい加減にハラ決めて。 暖人を説得するくらいの気概を持てっつの、」



志藤は全く進まない二人の関係にイラついていた。





去年は



まとまった夏休みが取れずにちょこっと遊園地に連れて行ったくらいで終わってしまった。



小学校ともなるとあんまり思い出を作ってあげないのも



気の毒になってくる。



「え~~? いいよ、べつに。 絵日記はナオトたちとこうえんでセミとったことかくから、」



当の暖人は父の問いかけにもテレビを見ながらそんな風に答えたりして



セミ獲り・・



余計に哀れになってきた。




社長室に社長とふたり。



窓の外は夏の日射しがまぶしいが、ブラインドを下ろして西日が入らないようにした。



ドアを挟んでの隣の秘書課も人が少ないようで静まり返っていた。



北都社長はもともと無口な人なので



こうして社長室にふたりきりになると、何も話さずに



時計の秒針の音が聞こえるくらいの静けさになる。



最初の内はそれが耐えきれないと思うこともあったが



今は気を遣うこともなく過ごせるようになった。




「・・ああ、」



急に何かを思い出したようで北都が声を発した。



「はい。 なんでしょう、」



樺沢は自分のデスクから立ちあがった。



「おれは8月に入ったら1週間ほど休みを取るから。 おまえもこの間休みを取ったらどうだ、」



「え、」



思わず若干首だけが前に出た。

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