第77話 Crescent(17)
「かばさわ・・???」
北都はその名前と声のギャップに戸惑う。
「あのう。 おとうさんがねつをだしています。 すっごくくるしそうなので、かいしゃをおやすみします・・」
暖人はよくわからなかったが
父の携帯に
『ホクト社長室直通』
と書かれた電話番号があり、漢字の部分が読めず
とりあえず会社かと思い電話をした。
「お父さんが、熱を。 わかった。 じゃあ、ゆっくり休むように言っておいて。 きみは・・もう学校の時間じゃないのか?」
北都は一生懸命に父のために電話をしてくる暖人に
自然と顔が綻んだ。
「これから・・いきます。 ちょっとちこくしちゃうかも・・」
「車に気をつけて行くんだよ。 鍵をしっかりして、」
「はい、」
「はあ? カバが?」
志藤は思わずフツーに驚いてしまい、社長の前だということに気づき
「・・こ、子供が電話をしてきたんですか?」
神妙な口調で聞き返した。
「なんとか連絡をしないといけないと思ったんだろう。 しっかりした子だな。 あいつのおっちょこちょいに似なくてよかった、」
北都は書類を見ながらフフっと笑った。
こんな優しい顔も
するんやな。
志藤はヘンな所に感心した。
この話は当然香織にも回った。
「今晩寄ってやったら? なんかけっこうな熱らしいで。」
志藤が言うと
香織は少し考えて
「・・お母さんが行くかもしれないし。 あとで電話しておくから。」
と静かに微笑んだ。
普通の『彼女』なら
彼氏が熱出して寝込んだら、看病に行くのが当たり前なのかもしれないけど
香織はいつも『樺沢家』から、少しだけ身を引いている。
「はあ……? ハルが?」
声がガラガラで別人のようだった。
「なんかね。 電話したみたいよ。 『お父さんは熱があるから休みます』って。」
そこでしばしの沈黙。
その後、いきなり慌てふためく様子が電話口からもわかった。
「い、いま・・なんじ????」
香織は半分笑いながら
「もう9時半よ。」
「・・わ~~~!!! おれ、してない! でんわ! 社長・・!!」
もう混乱が手に取るようにわかった。
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