第76話 Crescent(16)

「ほら、もっとちゃんと流して、」



その晩



暖人と風呂に入った。



「もっとみじかいあたまにしたいよ。 ながすのめんどうくさい、」



「え~~、お父さんは今のが好きだけどな~。 ホラ、サッカー選手ってみんな髪の毛長いし。 カッコイイじゃん、」



「そんなにうまくもないのに、アタマだけおんなじでもはずかしいよ・・」



なんだか二人で入る湯船が狭くなった。




大きくなったなァ・・



割と小柄だった暖人だが、年長の夏くらいからどんどん背が伸び始めた。



今はクラスでも真ん中より大きい方だ。



笑った顔が



おれにソックリだって



自分でもそう思う。




おまえ



ホントにおれの子だったんだな。



なんて誰かに言ったら怒られそうだけど。



正直、前のヨメにここに連れてこられたときは



自分の子供なのかって・・思うくらいだった。



家族って



やっぱり一緒に生活してないとダメなんだ。



つくづくそう思う。




小学校に入学して



今までのように送り迎えがなくなったのは本当に楽だった。



しかし



保護者会や運動会や学芸会なんかの



行事にはなるべく参加したい、と思いそっちの時間をやりくりするのが大変だった。



忙しいからと言って母ばかりにそれを頼むのもイヤだったので



社長秘書という非常に多忙な仕事をこなしながらも頑張った。



振り返れば




一番頑張ったのはこの頃だったかもしれない。



「え? 熱??」



電話を受けた樺沢の母は驚いた。



「そうなんだよ。 なんかね、39℃もあるって。」



熱を出したのは



樺沢の方だった。



「ハルはもう学校の時間じゃない? あとでおばあちゃんが見に行くから、早く行きなさい。 お父さんはちゃんと会社には電話したのかしら、」



「うーんとね・・わかんない。 うんうんいってて。」



「いいから、暖人は学校に。 気をつけて行くのよ。」



「・・はーい、」



大人になってこんな高熱に冒されたのは初めてで



樺沢は完全にダウンしてしまった。



会社にも電話をしていないようだった。



暖人は父の携帯を取り出した。




「・・はい。 社長室。」



北都はだれもいなかったので社長室に直接かかってきた電話に出た。



ほとんどは代表で取り次ぎが必要なのだが



このホットラインは限られた人間しか知らない。



いつもは出ない電話も普通に出た。



「あのう・・。 かばさわはるとです、」



思いも寄らない子供の声がして



ぎょっとした。

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