第78話 Crescent(18)

「だから。 ハルが、ちゃーんと電話をしてくれたんだから。 大丈夫よ、」



香織は笑いをこらえながらパニくる樺沢を落ち着かせるように言った。



「ハル、が・・」



ようやく事態を把握した。



「・・しっかりした息子になったねえ。 なんかしみじみしちゃった、」



香織は暖人の成長に目を細めた。





「ん・・。」


樺沢も熱のせいか、なんだかホロっときてしまった。



「病院は? 行けるの? お母さんに電話して少し来てもらったら?」



香織はふうっと一息ついて現実に戻った。



「・・や、鎮痛剤飲んで。 少ししたら医者に行くよ。 ・・香織は、今晩来てくれる?」



「お母さんが来てくれるんじゃない?」



「そら。 オフクロよりも香織のがいいよ、」



「ほんっとに熱あるの? バカなこと言って、」



嬉しくて



顔がほころんだ。




「まったく、季節外れの風邪引いて。 不摂生してるから、」



朝の仕込が終わった母がやって来た。



「ハルがね、学校に行く前に電話くれたんだよ、」



「え、」



「お父さん、すっごい熱だって。 後で見に行くからハルは学校に行きなさいって言っといたんだけど。 会社にまで電話するなんて・・あの子もホントしっかりした子になったね、」



香織と同じように感心した。



「親がダメだからなあ・・。」



と言いつつ嬉しさを隠しきれない。



「病院は? ひとりで行けるの?」



「行きますよ・・。 小学生じゃないんだからさ。 もうちょっとしたら行くから。 オフクロも忙しいんだから来なくていいよ、」



ゴホンゴホンと咳き込んだ。



「じゃあ、また夜に顔だすよ、」



「あ・・。 『彼女』来てくれるってゆーから。 ハルも早めに帰してくれていいよ。 もうウチからなら一人で来れるから、」



「あー・・そ。」



母はオーバーにつまらなそうにため息をついた。



「ま。 『彼女』の方があたしが看病するより早く治るかもね。 あんたも責任のある仕事なんだから身体を壊したら元も子もないんだよ。 健康管理も仕事のうちだよ。」



そう言いつつも



ちゃんと認めてくれて



かけてくれる言葉があったかくて



本当にありがたかった。





「ハル、帰ってたのか・・ごめんな。 すっげえ寝ちゃった、」



夜の7時くらいに何とか起きてリビングに行くと、暖人がひとりでテレビを見ていた。



「お父さん、もうよくなった?」



「昨夜っから寒気がしてどーしようもなくてさあ。 なんか医者行って薬もらったらちょっと良くなった気がする・・」



「ほんと? よかった。 さっきね、かおりちゃんから電話あったんだよ。 もうすぐいくよって。」



暖人は嬉しそうに言った。


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