第72話 Crescent(12)
「ハルのことも・・大事だけど。 香織のことも大事だ・・。」
性に合わない甘い言葉も
全てが心地よくて。
「もう・・どうにかなっちゃいそう。 あたし・・カバちゃんがいなかったら・・生きていけない、」
まだ酔いが残っていた。
じゃなかったら
こんなセリフ、絶対に言えない。
「おれもだよ、」
彼の言葉も心を満たすのに充分で。
あんなに悲しかったのに
いつの間にかあったかい気持ちでいっぱいになった。
やっぱりあたしには
この人が必要なんだ。
そう思うことが罪のように思えて
またすぐに打ち消した。
夜が遅かったのでなかなか起きられない樺沢に香織は体を揺り動かして
「・・カバちゃん。 もう7時だよ。 そろそろ起きてハル、迎えに行ってやんないと・・」
香織は久々の二日酔いと寝不足でフラフラだったが
何とか彼のために朝食を用意した。
ゆうべは樺沢が香織の部屋に泊まってしまった。
本当はハルがいない間に
こうなることはイヤだったので、少し罪悪感だった。
「二日酔い、たいしたことなかったら香織もウチ来れば? 一緒に過ごそう、」
コーヒーを飲んだ樺沢はそう言ったが
「こんな酒くさい姿。ハルにさらしたくないよ。 ほんっとサイアク。」
「香織の二日酔い姿ってのも。 レアもんだけどな。」
樺沢はアハハと笑った。
「あたし。 斯波さんを助けて、これからも事業部で頑張る。 自分が一番貢献してなくちゃイヤだなんて・・ほんとわがままだった、」
香織は昨日の自分を反省した。
「気持ちは。 自分が一番、でいいんだよ。 まだまだ香織が頑張れることはあるって、」
彼の笑顔が
心に染みた。
ひとり家の片づけをして過ごしていたら
いつの間にか二日酔いは消えていた。
それを見計らったかのように、樺沢からメールが入る。
『今、ハルと公園で遊んでるから、よかったらおいでよ。』
それを見てふっと微笑んだ。
「え~~? サッカーはキツいなあ・・。」
「おとうさんとかおりちゃんがパスをして。 ぼくがとる!」
暖人は張り切った。
「え~~、ハルにも負けちゃうよ~、」
こうやって
お父さんと
会社のお姉さんに戻って
暖人と過ごす日常が
いつの間に当たり前の世界になった。
この日初めてそれを実感した。
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