第70話 Crescent(10)
「は? なに? 騒がしいけど。 外なの?」
樺沢は社長についての仕事が遅くなり、10時を回ってしまったが
帰り道に香織に電話をしてみた。
「あ? そと? てか、中・・かな???」
どう考えても
酔っぱらったような彼女の声。
「飲んでるの? 志藤たちと?」
「ひとりにきまってんじゃん・・。 ホルモン焼き屋で飲んでんの。 ・・悪い?」
『ザル』
と称されるほど香織は事業部の誰よりも酒に強かった。
強いと思っていた自分でさえ、酔った彼女を見たことがない
という、女性にしては考えられないツワモノだった。
その彼女が
声だけでわかるほど完全に酔っぱらっている。
「なんだよ・・そんなに飲んで。 今から行くよ。 どこ?」
「・・早くハルんとこ帰りなさいよ。あんたは!」
ロレツも回っていない状態で。
「今日は。 おれ遅くなるからと思って、ハルは実家に泊めてるから。 どこなんだよ。 今行くから、」
苛立ったように思わず声を荒げた。
「・・なによ。 来たの?」
オヤジたちが集うような店で
焼酎の5合瓶が1本空になってテーブルの上に置かれて
今は日本酒の4合の瓶をデンと置いて
それを飲んでいた。
それも空になりそうだった。
もう目も完全に据わっていて、絵に描いたような酔っ払いだった。
「女ひとりでこんなに飲んで! ダメじゃないか!」
樺沢は腹立たしくなって彼女を叱った。
「・・女がひとりで飲んじゃダメって法律でもできたの? 余計なお世話よ!」
絡み方も普通じゃなかった。
香織はそれでも
自分の目の前にやって来てくれた樺沢に
心に溜まった鬱憤を一気にぶつけ始めた。
「そりゃね・・あたしだってわかってるよ。 斯波さんのがあたしなんかよりもずうっとずうっとクラシックに詳しいし、仕事も早いし。 だけど・・それまで何とかやってきたあたしの頑張りが・・もう・・薄っぺらいものだった気がしちゃって。 あたしなんかいてもいなくてもおんなじなんじゃないかって・・」
酔っぱらいながら
泣く彼女も初めて見た。
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