第66話 Crescent(6)
離婚をする時は
その条件でもめた。
養育費は払うことになったが、子供に定期的に会うことを認めてくれなかった。
育児に全く非協力的だった自分に対する復讐だったのかもしれない。
子供が小さかったので、養育権も親権も彼女が持った。
正直
そんな彼女が暖人を簡単に手放して、新しい男のもとに走ることが
信じられなかった。
「生まれてくる子は。 ちゃんと幸せにしてやれよ。 なんておれが言うのも・・なんだけど。」
「・・駿、」
「暖人は・・おれが立派に育てる。 おまえはひとつも心配しなくていいから。 今度はちゃんと幸せになってくれ、」
最後は自然とその言葉が出た。
彼女は別れ際に
プレゼントは何を買っていいかわからないから
何か好きなものを買ってやって
と、お金を手渡された。
5年間一緒にいたのに
1年離れただけで子供の好きなものがわからなくなる。
それは
寂しいことなのかもしれない・・
ずっと暮らした福岡の空気が
変わった気がした。
空を見上げると
少しぼんやりした三日月が浮かんでいた。
福岡の雨が東京に来てしまったようだった。
自分が雨雲を連れて来てしまったかのようで、あまりいい気持ちがしなかった。
まるで
自分の心の中のようだった。
香織は彼の話を聞いて
少しだけ驚いたような顔をしたけれど
それからは何も言わずにじっと彼の話を無表情に聞いていた。
「もう。 彼女は彼女の幸せな生活を送ればいい。 おれたちはおれたちの幸せな生活をしていくだけだ。 おれは、今ハルのいるこの生活がおれの人生だから、」
樺沢は寝ているハルを起こさないように小声で言った。
香織は胸がいっぱいになって言葉が出なかった。
暖人の母の苦しみやその彼女を目の当たりにした樺沢の戸惑い。
母のことを一切口にせず元気に過ごす暖人の姿。
もう何もかもがごっちゃになって
気がついたら
涙がこぼれて止まらなかった。
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