第64話 Crescent(4)
元妻の美香に会うのは1年ぶりだった。
暖人を東京に連れてきて以来だった。
もちろん福岡で母親に会うことは暖人にはナイショだった。
仕事を終えて、樺沢は待ち合わせの駅前の広場に行くとすでに彼女は来ていてベンチに腰掛けていた。
「ごめん。 仕事押しちゃって、」
「・・ううん。 あたしも今きたとこ。」
「じゃあ・・そこのコーヒー屋でいい?」
「・・ええ、」
と彼女が立ち上がった時
樺沢は驚いた。
「え・・」
明らかに
美香は妊娠していて、おなかがのふくらみがはっきりとわかった。
樺沢が驚くことを予測していたのか
「・・今、7ヶ月。 秋には生まれると、」
美香はうつむいて小さな声でそう言った。
二人は向き合ったまま
しばらく何も話せなかった。
美香が暖人の親権を放棄したい、と言った理由は
再婚相手の男が子供ぎらいなので、暖人が一緒だとうまくいかないだろうから
これからは父親であるあなたが育てて欲しい
ということだった。
確かにそんな子供嫌いの男のところで暖人が幸せに暮らせるわけがない、と思い引き取る決心をした。
それなのに。
「・・こども、作るつもりはなかったんだけど。 思いがけずに妊娠してしまって。 おそるおそる彼に話したら・・すぐに『いいよ、産めば』って。」
美香は重い口を開いた。
「自分の子供は・・やっぱり違うみたいで。 むしろ・・嬉しそうで、」
彼女の話を聞けば聞くほど
やるせなくなる。
まるで
再婚相手に暖人が邪魔だった、と拒否されたような気がして。
暖人が
捨てられたような気がして。
「今日、あなたに会うのも・・本当はどうしようかと思ったんだけど・・」
どんどん彼女の声は小さくなった。
「ハルは、元気? どうしてる?」
そして泣きそうな顔で聞いてきた。
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