第57話 Sympathy(17)

「かおりちゃんに、おうちにきてほしくて・・」



暖人は悪いことをしてしまったかのようにうつむいた。



「おうち? ハルとお父さんのおうち?」



香織は目を丸くした。



「うん・・。」




暖人が何を言いたいかわからなかった。



しかし



「あの。 あたし今日は仕事が休みですから。 ハルくんをお預かりしていいですか?」



仁にそう言った。



「え・・ええ、」



「樺沢さん、たぶん夜遅くなると思いますが、彼が帰るまで私ハルくんを見ていますから。 ですぎたことだとは思いますが、お願いします・・」



頭を下げる香織に



「逆に。 助かります。 ウチも忙しくてこいつの面倒、見れてないし。 オフクロとオヤジにはおれから言っておきます、」



仁はニッコリ笑った。





「え? その彼女にハルを預けたの?」



樺沢の母はそばを運びながら仁を見た。



「ハルがさ、どーしても佐屋さんに会いたいっていうから。 なんか理由があるみたいで、」



仁はテーブルを拭きながら答えた。



「ちょっと・・大丈夫なの?」



「大丈夫って?」



「だって。 いくら駿のつきあってる人だからって。 こうしてあたしたちがいるのに、」



母は少し不満そうだった。



「つったって。 面倒みれてねーじゃん。 いちおうウチに置いてるってだけでさあ。 彼女がハルを預かってくれてちゃんと面倒見てくれるって言うんだから。 そっちのがハルにとっては楽しいよ、」



「なんで。 いまだにその人あたしたちにあいさつにも来ないのかしら、」



母の不満は違った方向に行ってしまった。



「遠慮してんだろ。」



「遠慮?」



「基本は兄貴が暖人を育てなくちゃならない。 おれたちはさ、兄貴の仕事が時間の読めない仕事だからその間暖人を預かってるだけにすぎない。 彼女だってそういうつもりだと思うよ。 だって別に彼女ってだけでハルのなんだってわけでもないし。 出過ぎないようにしてるんじゃないの? あの人、ハルの保育園の行事だって一度も来たことないんだろ?」



仁はテーブルを拭いた台布巾を手にした。



「・・それは。 そうだけど、」



本当は母もわかっている。



息子の彼女が自分たちに近づきすぎないわけを。



暖人にとっての家族は父親とそしてその家族だけ。



母親と別れてきた子供にとって



家族を味合わせてあげることが一番大事だ。



その彼女はきっと



そう考えている。





香織は暖人のためにパスタを作ってやった。



「おいしい? カルボナーラだよ、」



「うん。 こんなのたべたことない、」



暖人は嬉しそうに笑った。



なぜ彼が自分を呼び出したのか。



話してくれるまで何も聞かないようにしようと思っていた。




昼ごはんを食べ終わった後、天気のいい窓の外を見て



「すいぞくかん・・いきたかったなー・・」



暖人はポツリと言った。



子供にありがちなセリフなのだが



彼が



ああしたい



こうしたい



ということは



本当に珍しかった。



香織は少しハッとした。


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