第58話 Sympathy(18)

「また今度、行けばいいよ。」



香織はそう慰めた。



暖人は香織を見て



「かおりちゃんも。 いっしょにきてくれる?」



真剣な眼差しで言った。




「・・うん、」



こういう『わがまま』みたいなセリフも



暖人の口から聞いたことがなかった。



暖人はイスから飛び降りるようにして寝室に入ってしまった。



香織が怪訝な顔をしていると、すぐに戻ってきた。




「かおりちゃんの。 おたんじょうびのプレゼント。 きょう、わたそうとおもって。」



暖人は箱を差し出した。



「え・・・?」



驚いたままそれを手にした。



「・・今日、あたしの誕生日って・・知ってたの?」



「おとうさんがいってたから。 だから、かおりちゃんにないしょでプレゼントをじゅんびして。 すいぞくかんにいったかえりに・・わたそうとおもってた、」



蛇口から



水が一気に出てきたかのように



香織の心に何かが注がれた。




「・・あたしに。 くれるの?」



「うん、」



そっとそのお菓子の箱を開けた。



そこには



まるで標本のように並べられた、おりがみでできた昆虫たちがいた。





「これ。 ぜんぶ・・ハルが折ったの?」



「そうだよ! すっごくじかんかかっちゃった。 ほいくえんにもおりがみもってってつくってた。」



嬉しさを隠し切れないように



ぴょんぴょん跳ねながら言った。



「・・すごい。 すごいよ・・・ハル、」



もう



どうしちゃったんだろう。



言葉が出ない。




「それでね。 おとうさんにおこられちゃうかもしれないけど。 これはおとうさんのプレゼントだよ、」



暖人は小さなリボンのついた箱を取り出した。



「え・・」



かわいいかわいい瓶に入った



香水だった。




「それ、なあに?」



暖人は中身までは知らなかったようで、覗き込んできた。



「香水。 ・・いい香りがするんだよ、」



そう説明すると



「かおり? かおりちゃんだからだ、」



暖人は大発見をしたかのように喜んだ。



かおり・・



そう言われて初めて彼の『意図』に気がついた。



まったくもう



オヤジギャクもいいとこよ。

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