第52話 Sympathy(12)
「本当に私が至らなくてすみませんでした、」
暖人のクラスの若い保育士は樺沢に頭を下げた。
「いえ。 なんか大事になっちゃって。 こっちこそすみませんでした。」
「私がもっときちんと見ていれば。 こんなことにならなかったのに。 まだまだ未熟で、」
保育士になってまだ2~3年、という感じの彼女に
「ぼくだって。 新米オヤジですから。 自分の子がいじめられるんじゃなくて、逆ってのは初めてですし。 どうしていいかわかりませんでした。 マサキくんのお母さんみたいに子供を100%信じてやれずに暖人を傷つけてしまった。 今回のことはすごく勉強になりました、」
樺沢は素直にそう言って笑った。
園庭に目をやると
もう暖人とマサキはみんなと追いかけっこをして笑っていた。
「大人が気を揉むより。 子供たちのがよくわかってますね。 こうして傷ついて、傷つけられて成長していくんだろうなあ・・」
樺沢は感慨深げにそう言った。
「そっかあ。 よかったね。 カバちゃんも負けずにその『横綱』母ちゃんによく言ったね、」
香織と一緒に昼食を採った。
「ちょっと・・あの迫力にはビビったけどな。 でも、ミノリちゃんのお母さんみたく理解がある人がいて。 ウン、色んな人がいるなあって。」
食後のタバコを一服した。
「・・昨日、もひとつ言わなかったことあるんだけど、」
香織は思わせぶりに言った。
「え?」
「暖人はね、『おかあさんがいない』って言われたことに傷ついたわけじゃないんだって。」
意外な言葉だった。
「なんだかね。 お父さんがバカにされたような気持ちになっちゃったんだって。」
「え・・」
タバコを灰皿に押し付けた。
「それで。 お父さんが自分のことで相手の親とか保育園に謝ったりすることが・・ほんっとにつらかったみたいよ。 そういう姿を見たくないっていうのかな。 ハルはうまく言えないみたいだったけどそんな感じだった。 あたしたちさあ、どうしてもハルが『おかあさんのいないかわいそうな子』って感じで接しちゃうじゃない? でもね、もうハルにはカバちゃんさえいればいいんだって。 そう思った。 お父さんがいてくれればそれでいいって思ってることがすっごく伝わってきて。」
ハル・・
樺沢は聞けば聞くほど何も答えなくなっていった暖人の気持ちを思った。
子供なりに
すっごくいろいろ考えてる。
思わずふいっと横を向いて顔を逸らした。
「え? ひょっとして。 泣いてる??? ねえ、」
香織はわざとおもしろがって、彼の側に行き涙を確認しようとした。
「泣いてねえって・・。」
それを悟られないように体の向きを変えた。
「泣いてるじゃーん、」
「花粉症、花粉症。」
と、わざとポケットティッシュを出して鼻をかんだ。
「素直じゃないな~~。」
香織は明るく笑った。
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