第51話 Sympathy(11)
「なんですか? まったくもう・・」
あからさまにマサキの母親は嫌な顔をした。
マサキは右手首に軽く湿布をしているだけで、良くなっているようでホッとした。
「・・このたびは。 大変申し訳ございませんでした。」
樺沢は大きな声でそう言って深く頭を下げた。
横に居る暖人の頭を押さえて彼にも頭を下げさせた。
「ごめんなさい・・」
そして暖人は小さな声でそう言った。
「・・ほんっと。 乱暴なお子さんを持つと大変ですわね。」
と憎まれ口を利くその母親に
「・・でも。 マサキくんが暖人に言ったことも謝ってもらいます。」
樺沢は頭を挙げて堂々と彼らに言った。
「はあ????」
「マサキくんが暖人に『おかあさんがいないくせに』という言葉を言ったそうです。 確かにウチは父子家庭ですが、それはぼくたち両親の責任であって暖人には全く責任がありません。 暖人がマサキくんを突き飛ばしてしまったことは謝罪しますが、そのようなことを言って暖人を傷つけたことをそちらにも謝罪をしていただきたいんです。」
いつも
社で社長からの申し送りを秘書課で伝える時と同じようなトーンで冷静に言った。
「な、なんですって~~~? ウチの子がそんなことを言っただなんて、子供の言うことを鵜呑みにして! どこまで都合のいい親なの!?」
『横綱』母は激怒した。
「そちらも。 一方的に暖人がマサキくんをつきとばした、とお子さんの言うことを鵜呑みにしてらっしゃるじゃないですか。」
相手が激怒してくることは想定内だったので
樺沢は堂々として言った。
「ウチの子は悪くありません!!! そっちが悪いのにそんな言い方されて! 子が子なら親も親ですわね!!」
あまりの状態に登園してくる親子が彼らをぐるっと囲んで遠巻きにして見てしまった。
「ぼくは。 暖人を信じます。 ケガをさせたことは暖人が悪い。 だけど、言葉で暖人を傷つけたことも。 同じくらい痛いんだってことを。 お宅のお子さんにわかってほしいんです。」
『横綱』母の怒りが頂点に達した時
「あのっ!!!」
ひと組の母子がその二人の間に入って来た。
「うちのミノリが。 マサキくんにブランコで押されて倒れたそうなんです。 ミノリが前にいるのにマサキくんがブランコをこごうとしたので暖人くんが『あぶない!』って言ってマサキくんを押したそうです。 暖人くんはミノリを助けてくれたんです。」
ミノリ母の登場で
場の空気が変わった。
「ウチの子も暖人くんが責められて悩んでいたみたいで。 私もゆうべ娘から聞きました。 すごいケガになったら大変でしたが、子供のことなのでマサキくんのお母さんもあまり感情的にならないで下さい。 子供たちはとても仲良しなのに、お父さんお母さんがいがみ合っていては、よくないと思うんです、」
わりと年齢が高いと思われるその人は冷静にそう言った。
「・・マサキ、ほんとなの?」
マサキ母は慌てて息子に問いただした。
マサキは大きな身体を縮めるようにしゅんとした。
樺沢は何だか少しほうっとして
「そんだけいい身体してんだから。 いろんなスポーツやってみるといいぞ。 おっちゃんもな、子供のころすっごく身体がでっかくて。 自分では普通に友達を押しただけでも、そいつが吹っ飛んじゃったりして。 よく焦ってた。 わざとじゃないけど、ウチのハルやミノリちゃんみたくチビッコだと、本気出しても敵わないからな。 その力をスポーツで生かすように頑張れよ、」
マサキの目線になってかがんで、彼の頭を撫でた。
最後に
ものすごく
ものすごく
小さな声でマサキは
「ごめんなさい・・」
と、言った。
まだ母親の方は腑に落ちないようだったが
子供がわかってくれればいい、と樺沢は思っていた。
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