第49話 Sympathy(9)
気になった香織は
夜、彼らのマンションに行ってみた。
「ほら。 ハルの好きなドーナツ買ってきたよ。 明日の朝ごはんに食べてね。」
と、大好きなドーナツの箱を手渡されたが
「・・ありがと、」
いつもの元気がなかった。
「いけね。 朝メシって言えば。 牛乳買ってくんの忘れた。 ちょっとコンビニ行ってくる、」
樺沢は慌てて上着と財布を手にして出て行った。
「元気ないなァ。 まだ気にしてるの。 そのケガさせた子のこと。」
香織は暖人と向かい合い、ズバリ聞いてみた。
「・・・」
やはり彼はだんまりだった。
「あたし、どうしてもハルが先に手を出したとは思えないんだよね。 何か言われたの?」
「・・・」
「あのね。 香織ちゃんは魔法使いじゃないから。」
香織はニッコリ笑った。
「え・・?」
「ハルが、ちゃーんと自分の気持ちを話してくれないと。 ハルの気持ちがわかんない。 自分が今思っていることをちょっとずつでもいいから言ってみて。 お父さんもすっごく心配してる。 でもハルの気持ちがわからなくて・・悩んでる。」
その笑顔に押されるように
「ブランコ・・。 そのまえに・・ミノリちゃんがのってたのに・・」
暖人はポツリとつぶやいた。
「はあ? じゃあ・・ハルはその子を助けるために?」
ようやく暖人を寝かしつけて、リビングで二人は向かい合った。
「そのミノリちゃんて子がね、ブランコに乗ってたんだけど。 そのマサキくんが横取りしちゃったんですって。 その時に転んじゃったミノリちゃんが、まだそこにいるのにいきなりマサキくんがブランコの立ち乗りをしようとしたもんだから、ハルはとっさにマサキくんを突き飛ばしちゃったみたいなの、」
「なんだよ・・ソレ。 ハルはぜんっぜん悪くないじゃん。」
「たぶん先生も見ていなかった時のことで。 結局その子がケガをしてしまったから・・ハルが一方的に悪いってことになっちゃったんだと思う。」
「なんでそんなこと・・先に言わないんだ、」
樺沢はいらだちを覚えた。
「大人みたいにね。 うまく言い訳なんかできないって。 自分の言いたいことを言うのって、けっこう子供にとっちゃ大変なんだよ。 特にハルみたく我慢をしちゃう子は。」
「・・それにしても、」
「それに。 その子を突き飛ばしたあとに。悔しまぎれだろうけど『おまえんちおかあさんいないんだろ!』って言われたみたいなのよ、」
「え・・」
大ショックを受けてしまった。
「そのことをカバちゃんに言えなくて。 黙っちゃったんじゃないのかなあ・・」
大人の勝手でしたことが
こんな小さな子供をつらい思いさせることに繋がっている。
「難しいよね。 子供の世界は。 あんまり首をつっこんでもいけないしって。 理不尽でも子供の世界はそうやって成り立ってる。」
香織は静かに笑った。
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