第47話 Sympathy(7)

暖人と暮らし始めてから初めてのことに



樺沢は激しく動揺してしまった。



二人で帰る途中も



「なあ。 なんでつきとばしちゃったの?」



気を遣いながら聞いたが



暖人はうつむいたまま何も答えなかった。



暖人は穏やかで自分から暴力を振るう性格ではない。



それはわかっているのだが



怪我をさせてしまった親から乗り込まれたなんて訊くと



正直、ビビってしまう。




とりあえず。



家に戻って母から聞いたその子の家に電話を入れた。



「・・あのう、さくら保育園の樺沢と申しますが。 あの、暖人の父ですが。 今日のことは本当に申し訳ございませんでした、」



まず謝罪した。




「ブランコでつきとばされたってウチの子は言ってるんです! 捻挫ですんで運が良かったですけど! ひとつ間違えば大怪我になるところだったんですから!!」



やっぱり相手の母親はカンカンだった。



「本当に申し訳ありませんでした。 よく言ってきかせますので。 大事にならなくて本当によかったです、」




樺沢は電話口で何度も頭を下げた。



「・・お父さまお一人なんですってね。 余計なことですけど、ちゃんと教育されるのにも父親だけじゃ限度があるんじゃないですか。」



そして



辛辣な言葉を投げつけられた。



樺沢はぎゅっと拳を握り締めた。



「私の・・躾が行き届きませんでした。 本当に申し訳ございませんでした、」



悔しいが



もう謝罪をするしかなかった。



何度も何度も頭を下げる父を暖人はそっと見ていた。




「・・なんか。 ワケがあるんじゃないの? お父さん、ハルが自分からそんなことするなんて思えないんだけど、」



一緒に風呂に入った時にも樺沢は暖人に話しかけたが



暖人は全く口を利かなかった。



「なあ、」



と、彼の肩を叩くと



暖人は振り返らずにさっさと風呂を出てしまった。



「おい、ハル!」



樺沢は慌てて自分も上がった。




「なんで何も言わないんだ。 言わなくちゃお父さんわからないじゃないか、」



その後も樺沢の追及は続いた。



さっきの母親の言葉を思い出し



『ちゃんと教育するのにも限度があるんじゃないですか』



むしょうに悔しかった。



暖人は尚も黙り続ける。



「何も言えないってことはなあ! ハルが悪いって認めたことになるんだぞ! それとも、お父さんにも言えないようなことを、おまえはしたのか!」



暖人と暮らし始めて



初めて怒鳴ってしまった。

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