第45話 Sympathy(5)

香織が暖人を



あれほどかわいがっている気持ちが少しだけわかった。



暖人は



わがままをひとつも言わない。



「じゃあ、手をふきましょうね、」



ゆうこはバッグから濡れたタオルを取りだした。



「ハイ、」



ひなたが手を出すと



「ちょっと待っていて。 暖人くん、手を出して。」



ゆうこは先に暖人に声を掛けた。




すると



「ぼく、そこであらってくる・・」



そばに水道があったのでスッとベンチを立ってしまった。



ひなたとななみの手を拭いてやった後、



手を濡らしたまんまで戻って来た暖人に



「ハイ。」



ゆうこはしゃがんで乾いたタオルで彼の手を包み込むように拭いてやった。



「・・ありがとう、」



少しだけはにかんで笑った。



5歳の子供なんか



普通はまだまだ聞きわけがなくて当たり前なのに



とにかく



いじらしいほどわがままを言わない。





「ありがとう。 助かったよ。 ほんと面倒かけちゃって、」



樺沢は4時ごろには志藤家にやって来た。



「もう、ぜんぜん。 本当にいい子で。 ひなたなんかわがままで恥ずかしくなっちゃう、」



ゆうこは笑った。




「ママ~~、もうばんそうこうはってってゆったのに~、」



ひなたはまだ大したことない膝の擦り傷に拘っていた。



「そんな何でもないないところに貼っても、ダメよ。」



「え~~、もうなんでもなくてもいいから、はりたい~~。」



そんなひなたに樺沢は笑って



「子供ってほんとなんでこんなことってことにこだわるよな、」



と言ったが



ゆうこは



ばんそうこうを貼ってほしい



なんてささやかな願いを言う人が暖人にはいるのか、と少し心配になってしまった。



意味もなく抱きついたり



甘えたり



それができるのが母親だから・・




その後、夕飯を一緒に食べた。



「きょうね、こうえんにだんごむしいた、」



暖人は嬉しそうに樺沢に言った。



「ダンゴ虫かあ、懐かしいなあ。 昔よく集めてさあ、牛乳瓶に入れたりしたなァ、」



「え~~~、ぎゅうにゅうびんに~?」



「いっぱいあつめてさ、もう一杯になっちゃって。」



「それどうしたと?」



「どうもしない。 いっぱいになったらつまんなくなって、また公園にばらまいた、」



なんてことのない親子の会話も楽しそうだった。



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