第40話 Summer breeze(20)

翌朝。



「『彼女』が出てきたら、どーしようかと思った、」



仁が心配して顔を出してくれた。



「・・昨日。 遅くに帰ったよ。」



樺沢は彼にコーヒーを淹れてきた。



「これ。 店のお運びしてるおばちゃんがさ。 扁桃腺が腫れてる時は食べられないから、プリンとかゼリーがいいっていうから。 コンビニで買ってきた。」



袋を差し出した。



「あ・・・ありがと。 悪かったな。 迷惑かけて。」



「それはいいんだけど。 彼女よこすなら一言いえよ。 焦ったよ、」



「ごめん、時間がなくて。」



「キレイな人だったな。 大人で。 落ち着いてて。 ああいう人が『大人の女性』なんだな~~~って、」



「若造がエラそうに言うな。」



笑ってしまった。



「彼女は。 おれたち家族・・もちろんオヤジやオフクロやおまえも含めて。 入り込まないようにしてたから。 昨日はウチに行くのに勇気がいったと思う、」



樺沢はマグカップに淹れた自分の分のコーヒーをひとくち飲んだ。



「別に。 いいじゃん。 よさそうな人だし。 ウチにも来てもらえば。」



「ハルに自分の存在をどうやって説明していいかわかんないって言うんだよ。」



「え?」



「おれの家族の中に混じってしまったら。 やっぱ『特別』なんであって。 母親が自分より他の男選んで行っちゃったばっかりのハルには。 父親の『彼女』って意識をさせたくないんだと思う。 『お父さんの会社の人』でいたいって思ってる、」




その言葉に仁は黙ってしまった。



「ハルが。 もうちょっと大きくなったら。 きちんと彼女がそういう存在だって、わかってもらう。」



「それまで兄貴の彼女でいてくれりゃいいけどな、」



仁は冗談を言って笑った。



「ほんとだな、」



冗談だったのに



樺沢は真剣な顔になりうつむいた。




「おとうさん・・かいしゃいかないの、」



少し起き上って、美味しそうにイオン飲料を飲む暖人は父を気遣った。



樺沢はベッドの端に腰かけて



「今日はお休みをもらったから。 ずっといるからな、」



頭をなでてやると、まだ赤い顔をしてニッコリ笑った。




「そっかあ・・扁桃腺炎かあ・・」



志藤は香織から話を聞き心配そうに言った。



「今日、カバちゃん休ませてもらってるんだけど。 さっき電話したらまだ熱が37度5分あるんだって。 きっとあしたも保育園行けないだろうなあ・・」



「カバのお父さんたちはいつ帰ってくるの?」



「明後日。 それまでは店の人とカバちゃんの弟とてんてこまいみたい。 ・・・治らなかったら明日も休ませてもらうって・・言うんだけどー。」



香織は心配そうに宙を見た。



「真太郎さんもNYに行っちゃって。 社長のフォローをしてくれる人がいないから。 あんまり休むと。 それで。 もしハルの熱が下がらなかったら、明日、あたしが休んで面倒見ようと思うんだけど。 ダメ?」



一応上司の志藤に言った。



「・・姐さんも仕事たまってるって言うてたやん。 大丈夫なんか?」



「事業部や志藤さんに迷惑がかかることはしません。 きちんと今日中に仕事終わらせて。」



香織は必死に訴えた。

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