第38話 Summer breeze(18)

「・・ごめんください、」



申し訳なかったが店の方から入っていった。



「いらっしゃいませ!」



威勢のいい声が聞こえた。



店はかなり広い方でお運びの従業員だけでも3人はいた。




「あのう。私、ホクトエンターテイメントの佐屋と申します。」



板場の方に近づいて、一人の長身の若者に頭を下げた。



見るからに



樺沢とソックリで



彼の弟であることがわかったからだった。



「ホクト・・。 って・・え???」



弟・仁は頭に巻いていた手ぬぐいを思わず取った。



「樺沢さんはまだ社長とお出かけ中です。 時間がかかりそうなので、さしでがましいと思いましたが、私が暖人くんを迎えに参りました。 こちらもご両親がご不在でお忙しいのは樺沢さんも気にしていましたから。」



落ち着いた声で香織はそう言ってから頭を下げた。



「あ・・いえ、す、すみません。 キタナイところですが・・二階に、ハルは寝てますんで・・」



まだ23歳の弟・仁は突然現れた兄の恋人



しかも



かなり大人の雰囲気をかもし出している恋人に、なんだかあがってしまった。



「・・失礼いたします、」



香織は丁寧にお辞儀をしてから二階に上がらせてもらった。



「・・ハルくん、ハル、」



苦しそうに息をして寝ている暖人にそっと声をかけた。



暖人はそっと目を開けた。



「迎えに来たよ。 おうちに帰ろう、」



香織は優しく声をかけた。



「・・かおりちゃん。」



かすれた声で



それでも安堵したような暖人の潤んだ瞳に



香織はもう自分のことのように苦しくなった。



「おんぶしていってあげる。 もうすぐお父さん帰って来るからね、」



「うん・・」



「だいじょうぶ、ですか。」



仁は暖人をおぶって保育園の荷物も持った香織に言った。



「大丈夫です。 力はありますから。 すみません、お忙しいところを、」



香織は暖人を負ぶったまま、また丁寧に頭を下げた。



そこで彼はハッとして



「い、いえ! こちらこそ。 あっと・・兄貴が、いつも、お世話になって・・」



慌てて同じように頭を下げた。



「お兄さんのお世話は別にしてません。」



香織はおかしそうに笑った。



「かおりちゃん・・のどがいたいよう・・」



暖人は甘えるようにそう言った。



「じゃあ、腫れているところを冷やしてみようか。 ちょっと待っててね、」



医者から処方された解熱剤を仁が2時間ほど前に飲ませた、と言っているが



もう熱が39℃になっていた。



真っ赤な顔で苦しそうに眠る暖人の頭を香織は優しく撫でた。


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