第36話 Summer breeze(16)

暖人が父が作った弁当を6割残してきた理由は



彼が張り切って撮った弁当の写メをみたら一目瞭然だった。



「そんな笑うなっ!!!」



香織があまりに大ウケしていたので、イラだった。



「だって。 これ、どー考えてもサラリーマンの弁当じゃない・・」



もうおかしくて涙が出てきた。




樺沢が5歳の息子に作ったのは、



直径10センチ以上はあると思われる巨大おにぎり2個。



弁当箱もサラリーマンが持っていくような大きさのもので



おかずがギュウギュウに詰められていて



その上



バナナがそのまんま1本・・



という



豪快すぎるものだった。




「こりゃ食べきれないよ。 ていうか、半分近く食べたのもエラいって。 ハルも気を遣ったんじゃない?」



香織は笑いすぎて涙が出てきてハンカチで拭いた。



「なんっかさー。 量がわかんなくって。 5歳の子供ってどんだけ食うのか。 いつも夕飯とかはけっこう食ってるからなあと思って・・」



「このおにぎりだけでどんぶりめし2杯以上あるって、」



「そうかああ・・」



本気でがっかりする樺沢に



「ま。 でも。 父の愛は伝わったよ。 ウン、だいじょぶ、だいじょぶ。」



ポンポンと背中を叩いてやった。



失敗もあったけど



何だか子供との生活もすごく生きがいを感じる。



子供が日々成長しているのもよくわかる。



「まだ暖人なんか楽だって。 おとなしいし、聞きわけもいいし。 病気もしないし。 子供は2歳くらいまでが一番は大変やからな。」



志藤は樺沢につくづく言った。



「2歳までかあ・・」



一番大変な時を妻に全部押しつけていたのか。おれは。



また罪の意識に苛まれた。



携帯の待ち受けが



暖人とのツーショットになり



出張になると必ず暖人にお土産を買う。




まさか自分がこんな父親になるなんて



夢にも思わなかった。



というささやかな幸せに浸っていた頃。




「え? ハルが?」



樺沢は就業中に弟から電話を受けた。



暖人の保育園から電話があり、熱を出したので迎えに来て欲しいと言われたらしい。



「ね、熱はどうなの???」



初めてのことに樺沢は焦った。



「今39℃あるよ・・」



「医者は???」



「さっきおれが連れてった。 扁桃腺炎だろうって・・」



仁は心配そうに言った。

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