第33話 Summer breeze(13)

「ほんと。 真太郎さんは南ちゃんのことを一番に考えてくれてるんだね、」



香織は優しい笑顔で南に語りかけた。



「え・・」



「ほんとは一緒に来て欲しいって思ってるよ。 でも。 南ちゃんにも大事な仕事があるし、やりたいこともある。 それを尊重してくれているだけだよ。」



「かおりん・・」



「あんないいダンナ、いないよ。 南ちゃんがどんだけ脱線しても怒ったりしないし。 しょうがないなあって感じで見守ってくれていて。 あの人がいなかったら、南ちゃんほんっと堕ちた人生送ってたかもよ、」



冗談ぽく言って笑った。



「それは。 言えるなあ・・」



南はしんみりとして窓の外を見た。



去年。



南は待望の妊娠をしたのだが



妊娠発覚後2週間もしないうちに流産してしまった。



もう仕事もできないくらい悲しみに打ちひしがれていた彼女に



真太郎は



『南だけそばにいてくれたらいい』



と言ってくれた。



ムリに子供を望むより



いつもとなりに南がいてくれたら



それだけでいいと言ってくれた。




その経過はもちろん香織も知っていた。



「離れたらダメだって。 事業部の仕事なんかどーにでもなるって。 忙しかったら志藤さんに言って人増やしてもらえばいいんだから。 んで2年経ったらまた一緒に仕事しよう。」



励ますようにそう言った。



「わかってるけど~~~~。 なんっかもうみんなと離れるのがつらい・・」



南は子供のように半ベソをかいて『本音』を漏らした。



「バカだねえ。 一生の別れじゃあるまいし。 でも。 夫婦はどんな時でも一緒にいなくちゃ。 って結婚もしてないあたしが言うのもなんだけど、」



いつもの彼女になって笑った。





暖人の運動会には樺沢も午前中休みをもらって母親と一緒に出かけた。



つなひきをしたり、暖人をおんぶして走り回ったり



本当に楽しい時間を過ごした。



「ハル、足速かったなあ。 お父さんも子供のころすっごく足が速かったんだぞ。」



帰りに参加賞のお菓子の袋を貰ってご機嫌の暖人に言った。



へへっと照れくさそうに笑った。



そこに。



「はるとくーん。」



友達らしき男の子が走ってきた。



「ねー、ふくろのなかなにはいってた?」



「えー、まだみてない・・」



二人で笑いながらじゃれていると、



「ユウキ、帰るわよ。」



彼の両親らしき二人がやって来た。



「あ。はーい。 うちのパパとママだよ、」



張り切って紹介された。



樺沢は目が合って軽く会釈をした。



保育園に迎えに行くのがいつも一番最後で



他の保護者との面識がほとんどなかった。



「はじめまして。 大野勇気の母です。 いつも暖人くんに遊んでもらっているみたいで、」



と母親の方に言われて、



「え! あ、こちらこそいつもお世話になっています・・」



思いっきり仕事の挨拶をしてしまった。



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