第32話 Summer breeze(12)

「その分。 彼女が気を遣ってくれる、」



樺沢はポケットの煙草を探って1本取り出した。



「ほんま。 あの人気がつく人やからな。 言いたいこと言ってるようで、すっごく気を遣ってるしな、」




志藤も箸を置いて口元をハンカチでぬぐった。



「彼女の年のことを考えると。 このままつきあっててもいいのかって思う、」



ため息と一緒に煙を吐いた。



「・・結婚ってこと? そこまで考えてるんか?」




「ハルが現れる前は。 ひょっとしてこのままつきあって、結婚とかになるかも。 なんて想像したこともあった。 何しろ彼女といると楽だし、自分を繕わずにいられるって思ってた。 で最近はいい意味でなんだか『家族』っぽくなっちゃった、」



樺沢は苦笑いをした。



『家族』




志藤は以前香織が言っていたことを思い出した。




『ときめいたりとか。 そういうのがなくなっちゃう。 ご飯作ってあげたりとか、すぐに相手の生活に入り込んじゃって。 『お母さん』みたくなっちゃうわけ。 やっぱ恋愛って刺激がないと・・ダメだよね。』



今まさに



彼女はその状態にいる。



「香織はおれが今一番考えなくちゃいけないのはハルのことだって言う。 自分のことよりもハルのことを考えろって。 だけど。こんなおれとつきあってたら、やっぱり年のことも気になると思う。 どう考えたって今、おれは香織と一緒になることができないし。」



志藤にも樺沢の迷いはよくわかった。



「ほんまにな、もう姐さんがすぐに結婚できる人を探しているんだとしたら。 とっくにおまえの元は去ってると思うで、」



志藤もタバコを取り出した。



「彼女の本当の気持ちはわからへんけど。 今一緒にいてくれてるってことは子持ちのシングルファザーのおまえが好きで一緒にいるんやないのかな。」



彼の言葉に



少しだけ救われた。





一方。



「え、NY???」



香織は驚いて口に入れたパスタを慌てて飲み込んだ。



「ウン。 社長がね、真太郎にNY支社に2年ほど行くようにって。 まあ外の世界を見ておくのは必要やと思うけど。 それで。 あたしは・・どうしようかなって。」




真太郎にNY支社転勤の話が持ち上がり



南は密かに悩んでいた。



「え、何悩んでんの?」



香織は逆に聞いてしまった。



「だから。 あたしも一緒に行くかどうかやって、」



「そんなもん。 妻なんだから行くしかないんじゃないの、」



「あっち行っても。 今はあたしの仕事はないねん。 まあ、少しは手伝ったりみたいなことはあるかもしれへんけど。 行くとしたらほんまに真太郎の奥さんとして行くだけやもん。 事業部のことも気になるし、」



南はアイスティーにミルクをいれてストローでかき回した。



「でも。 2年ってわかってんだもん。 また戻ってこれるし。 一緒に行ったほうがいいよ、」



「志藤ちゃんもそう言ってくれてる。 真太郎はあたしの好きにしていいって。 ムリについて来てくれとは言わないって。」



香織はそんな話を聞いて



ふふっと微笑んだ。

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