第31話 Summer breeze(11) 

「こっちきて・・すぐくらいにつきあうことになった人なんだけど、」



樺沢は夕飯もそこそこに小さな声で家族にカミングアウトした。



「ハルをこっちで預かることになってからも、すごくおれたちのことを考えてくれて・・」



「その人、いくつなの? 同じ課の人なんでしょ?」



母は心配そうに言った。



「おれより一つ年上。 34。 同じ課じゃないけど。」



「え、34? ってひょっとしてバツイチとか?」



もう弟・仁は興味以外は何もないような感じだった。



そんな彼にウザそうに



「ちがうよ。 独身。 つきあってるってだけで、それ以上はまだ・・・別に、」




樺沢は気まずそうにお茶を飲んだ。



「別にって。 『かおりちゃん』だなんて呼ぶくらいなんだから、けっこう家に来てるの?」



「週に1度くらいメシ作ってくれたり。 遊んでくれたり。」



「まさか、結婚を考えてるわけじゃないよな、」



父が念を押した。



「それは。 まだ・・」



「これ以上。 ハルを混乱させたりしたら。 あたしが許さないからね。 ほんっと美香さんもあんだけ強情に親権と養育権を望んだくせに。 自分が再婚にハルが邪魔だからって、簡単に手放して。 どこまで自分勝手なことして・・」



母は興奮して少し声が大きくなったので、



「おい、」



父が台所にいる暖人を気にして諌めた。



「あの子がどんだけ傷ついてるか。 その上・・また新しいお母さんだなんてことになったら。」



母は声をひそめた。



「だから。 彼女もおれも。 そんなこと考えてない。」



「でも。 相手34だろ? 結婚を望んでいてもおかしくない年じゃん、」



仁の言葉にドキっとした。



もちろん



香織は結婚の『け』の字も口にしたことがない。



暖人が現れる前は、自分もそんなことを考えることはなかった。



「彼女は。 いつだってハルを一番に考えて欲しいって言ってくれてる。 おれがこの運動会に行こうって誘っても。 それはオヤジやオフクロたちに言うべきだって言って。 すごくわきまえてくれているんだ。 そういう人なんだ。」



樺沢は家族に香織の人となりを話しながらも



あらためて彼女の存在をかみしめる。



「今は。 静かに見ていてくれないか。 彼女のことも紹介したいけど・・そうすることによってハルに意識させてしまうといけないから。」



暖人のため



と言われて家族は仕方なく黙ってしまった。





「ほんっと。 世のオヤジたちは偉いよな。 いや、オフクロたちも偉い。」



樺沢はそばをすすりながら言った。



「なに、今更。」



志藤は笑った。



「なかなか子供の細かいところまで気が回らない。 ハルは特におれに何も言ってくれないから、余計に。」



樺沢は大きなため息をついて箸を置いた。



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