第13話 Began at the time(13)

「普通はさ。 恋愛の延長線上に結婚があるわけじゃない?」



香織はテーブルに指で直線を描いた。



「ま・・普通はな。」



志藤は腕組みをした。



「あたしはぜんっぜん結婚が考えられなくて。 恋愛だけしてればいいって思ってた。 でも、この前のカレシと別れた時。 ああ、どっかでやっぱり考えてるのかなーって思ったら。 ちょっとヤになっちゃって。」




いつもいつも男っぽくさっぱりしていて、明るい彼女が



こういうことを考えていること自体が意外だった。




「でも・・。 それが女の子としては普通やないの? おれはまあ・・子供がデキちゃったから結婚って選択をしたわけで。 それがなかったらたぶんまだ結婚してへんかったかも。 彼女とはつきあいたいって思ってたけど、結婚は全然考えられへんかった。」



「男って身の回りの世話をしてほしくて結婚するもんだと思ってた、」



いつものように笑った。



「え~? う~~ん。 そうかなあ・・・。 おれは別にひとりが長かったし、生活には不自由してへんかったし。 でも家に帰って誰かが待ってくれてるってのは純粋に嬉しいかな。」



「ゆうこちゃんはもうお嫁さんの見本みたいな子じゃない。 きっとダンナの世話して、子供育ててって・・そういうことがすごく合ってるんだよ。 仕事やめて正解じゃない?」



「本人的には仕事できないって烙印押されて気がして、ヘコんでたけどな。」




志藤は煙草に火をつけた。



「あたしだって別に仕事したいから結婚しないとか。 そんなんでもないし。 仕事命でもないし。 ほんっと何やってんだろって思うよ、」




大きなため息をつく香織に



「姐さんぽくないなあ。 おれは頼りにしてるのに、」



志藤は優しく微笑んだ。



「こんだけの女性はなかなかいませんよ。 世の男どもは見る目がない、」



あの無敵の笑顔でそう言われて



「ほんっと。 あんたどんだけ女騙してきてんのよ。 その口で! この口が悪いんだ!!」



香織は身を乗り出して志藤の頬をぎゅっとつねった。



「痛い痛い!! も~~~、爪が食い込んでるから!!!」




香織は別に酔っているわけでもなかったが



そんな意味不明な行動に出た後、ふうっと息をついて椅子に腰かけて背にもたれた。



そして前髪をかきあげて



おもむろに



「・・あたし。 今、カバちゃんとつきあってんの。」



突然のカミングアウトに



本当にバラエティのコントのように志藤は飲んでいたワインをぶっと吹き出してしまった。




「あーあー、もう。 何やってんのよ・・こっちまで飛んできた。 てゆーか、赤ワイン、シャツについちゃうと取れないよ!」



香織は平然として自分のハンカチを取り出して、コップの水を少しつけて叩いてやった。



志藤は咳き込みながら



「急に・・変なこと言うから!!」



もうシャツがどうなろうと



どうでもよくなるほどの衝撃だった。


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