第14話 Began at the time(14)

「え、変だった?」



香織はそのハンカチを志藤に手渡し、まるで何事もなかったかのように座った。



「・・ウソやろ?」



志藤はついでにそのハンカチで口元を拭きながら言った。




「え。 なんで冗談でこんなこと言わなくちゃいけないの?」



若干キレ気味だった。



「え、だって! ・・なんで??? なんでカバと? てか、いつの間に???」



少しだけ我に返って、今彼女に聞かなくてはならないことを聞いてみた。



「いつの間にって言われても。 ホラ、彼の歓迎会。 志藤さんも南ちゃんも潰れちゃって。 二人をタクシーに乗せて。 あたしとカバちゃんは方向が同じだったから、相乗りでタクシーに乗ったのよ。 んで、あたしのが先に降りることになったんだけど~」



香織はその時のことを思い出すように宙を見た。



「カバちゃんがね。 トイレ貸して欲しいって言って、一緒に降りてきたの。 んまあ、トイレくらいならいいかなって思って部屋に上げたんだけど。 そっからまた話が長くなっちゃってさあ。 気がついたら2時くらいになってたの。 彼が『もう終電もないな~~。』とか言い出して。 あたしさあ、何人かつきあった人いたけど。 あんな図々しい人初めて!」



志藤は混乱しながらも非常に彼女の話が気になった。




「んで。 泊まっちゃったの。 結局、」



香織はあっさりと言ってピザを頬張った。



ハア??



さすがの志藤も岩石のように固まった。



「ぜんっぜん帰んないんだもん。 でも、なんていうか・・そういう計算とかもあるんだかないんだかよくわかんない所が得してるっていうか。 ほんっと自然に人のベッドに潜り込んでくるんだから!」



志藤はいろいろ考えた。



自分にもまあ



身に覚えはなくない。



初めて会ったその日に・・なんてこと。




いやしかし。



樺沢がそういう男だった、ということを想像するだけで



イタイ気がした。



ずっと会うこともなくて



親しかったと言ったらウソになりそうな関係だが



自分の知る彼は



体育会系で



ムードメーカーで



明るくて、子供みたいに無邪気な男だった。



何もかもが信じられなくて両手で顔を覆った。




「あ~・・なんっかめんどくさいこと聞いちゃった気がする・・」



「なによ、めんどくさいことって。 んで。 まあー・・それからは仕事帰りに彼がウチに来て、みたいな感じで。 あたしも何でこうなっちゃったのかよくわかんないんだけどさ、」



まるで他人事だった。



「別に男が欲しかったわけでもないんだけど。 なんか・・あたしが初めて会うタイプの男かなって。 基本、素直だし。 ぜんぜん邪な気持ちとかを感じないってゆーか、」



香織はさらにピザを頬張った。





充分『邪』でしょう・・



志藤は目を閉じて深くため息をついた。



それにしても。



南の勘はエスパーの領域やな。



そんなことを思い出してとりあえず感心するのだった。



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