第4話 Began at the time(4)

「・・所属の秘書課よりも先に歓迎会するのもどうかと思うで、」



志藤は半ば呆れながら南に言った。



「まあまあまあまあ。 ウチの本部長の志藤ちゃんの同期と聞いちゃ黙ってらんないやんか。 真太郎とも一緒に仕事することになるし。 カバちゃん、飲めるんやろ? どんどんいっちゃって、」



南は樺沢のグラスにどぼどぼと日本酒を注いだ。



なぜか樺沢の歓迎会を事業部のみんなプラス真太郎でやることになってしまった。



「あれ? 姐さんは?」



泉川は香織の姿がないことを不思議がった。



「ああ、かおりんね。 もうすぐ来るよ。 今仕事先から直接来るって言うから。」



「姐さんて・・ここには南さん以上の『姐さん』がいるんですか、」



樺沢は冗談ぽく言って日本酒をどんどん飲んだ。



「おるで~~~。 ウチはこの姐さんたちのツートップで持ってるんやから、」



志藤は笑った。



「佐屋さんは芸能部でも一目置かれる『デキる人』でしたからね。 事業部でも頼りにしてるんですよね、」



真太郎も笑った。




そこに



「ごめーん。 遅くなっちゃって。」



香織が個室に顔を出した。



「お、来た来た。 姐さんのお席取ってありますよ。 どうぞ、」



泉川がわざとらしく椅子を空けた。



「佐屋さんは角席が好きなんですよね、」



玉田がグラスを差し出す。



そして彼女が何も言わないうちに、生ビールが大ジョッキで運ばれてきた。



「ありがと。 ・・で、何の会?」



その大ジョッキを一気に三分の二を飲んだ後、香織はふうっと息をついた。



「あなたが・・事業部の『姐さん』ですか。」



彼女の正面に座っていた樺沢が半ば呆気にとられながら言った。



「・・だれ、この男。」



香織は思いっきり樺沢を指差した。



その豪快さに樺沢は気押された。



「へー。 社長秘書なんだあ。 見かけによらないね、」



香織はすでに2杯目の大ジョッキにさしかかっていた。



「見かけによらないって。 さっきもさんざん南さんに言われたのに、」



樺沢は若干テンションが下がった。



「この二人、毒舌だからなァ、」



泉川はお気楽に笑った。



「樺沢さんは独身なんですか?」



玉田がナニゲに聞いた。



すると彼が答える前に香織がポテトのチーズ焼きを食べていたフォークを彼に向けて



「独身!」



と言い放って笑った。



「鋭い・・」



樺沢は若干のけぞった。



「あれ? おまえ独身やった? 結婚したとか聞いたけど・・・」



志藤が記憶を手繰り寄せた。



「・・したことは・・ある。」



少し神妙にそう答えてグラスの日本酒をチビっと飲んだ。


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