第26話 限りなく近づいている
限りなく近づいている
夕食も終わり、みんなでお茶を飲んでいると、ガゼルが昨日の続きの話を切り出した。
「さて、蒸し返すようで申し訳ないが、ヴェルザーク家の話をしよう。 …俺達の正直な気持ちとしては、セシルをヴェルザーク家に迎えたいところだが、既にベークライト王はお前に楔を打ち込んでいるはずだから、それは諦めた。それに、ベークライト王家はセシルしか子供がいないし、そうなると王家が存続できなくなっちまうからな」
確かに、ベークライト王国の王族には、セシル以外の兄弟姉妹はいない。
また、王妃も既に他界していると聞いている。
だが、ベークライト国王は後妻を娶ることもせず、王妃の椅子は空座のままとなっているため、実質の跡取りはセシルしかいない、と言う事になる。
だから、ガゼルたちはカイルの婿入りを、事後だが容認せざるを得なかったのだ。
「…楔、ですか? …失礼ですが、そのようなものに心当たりはありませんわ」
「セシルは知らなくて当然だろうな。ところでカイル、お前は婚約の時に、何か公の任に就いてないか?」
「公の任って… プリンセスナイトに任命された事かな?」
「それだ。公に任命されるってことはな、裏から見ると違う意味合いを持つんだよ」
そう言って、ガゼルが話し始めたのは古い歴史だ。
このリルブライト大陸には六つの国があり、それぞれに長い歴史がある。
今でこそ平和な状態にあるが、それは表向きだとも言われていて、幾つかの国では今も征服欲を持っており、密かに機会を伺っていると言われている。
そうした場合、昔は内通者を相手国へ送り込んで情報を集めたり、関係者を取り込んだりしていたが、それでは国の王は誰も信用できなくなり、相談すら躊躇われる環境は王の判断を鈍らせ、それが国力の低下に繋がってしまう。
その結果として、政策に不満を抱いた国民の暴動を招き、国内は荒れ果てるのだ。
そうすると、戦を仕掛けて奪い取った領地も、荒れ果てているのでは使い物にならない。
復興のために想定外の予算と人員を割いた上、まともな領地運営ができるまでの間は、いつ襲撃されてもおかしくは無く、戦いを挑んでまで領地拡大をしたとしても、維持するための疲弊が新たな戦を呼び込んでしまう結果となるのだ。
ならば、正常な国家運営をするためにも、国王の信頼を取り戻すのが先決、と言う事で立ち上がった各国の大臣たちは一堂に集い、自分たちの信仰する女神に助けを求めた。
それを聞き届けた女神より、各国に一枚ずつ石版がもたらされた。
これは「歴史の石版」と呼ばれるもので、この石版に名を刻まれた者は、石版の裏に刻まれた者を裏切る事ができなくなる、別名「隷属の石版」とも呼ばれている。
この石板は今も各国に置かれており、石版の裏には国王の名が刻まれ、表には公に就く者の名が刻まれるのだ。
これにより、裏切りが行われる事が無くなると、国王の心労も減って国力が回復したと言う経緯がある。
「そんな石版が今でもあるなんて… でも、私は見たことがありませんわ…」
「これは国の中でも秘事中の秘事だが、ベークライト王は使ってないのかも知れない。だが、神から授かった石版だからな。どこかには必ずあるはずだ」
「そうだよね。パパは絶対にそう言うのは使わない気がするもん」
「でもさ。なんで、父さんはそんな事知ってるんだよ」
「まぁ、当然そう来るよな。 …それはな、俺が…」
ガゼルは途中まで話すと、悩むような困ったような表情を浮かべた。
すると、マリアがガゼルの肩に手を乗せると、安心させるように微笑むと、ガゼルの口元に笑みが零れる。
「それは、俺が王族の末裔だからだ」
カイルは耳を疑った。
聞き違えじゃない、確かにガゼルは自分が王族だと言ったが、もちろんそんな話は初めて聞いた。
「は? 王族の末裔? 何それ? そんなの初めて聞いたよ?」
「え、ええ… 私も全世界の国は把握しておりますが、王族にヴェルザークの名は聞いたことがありませんわ。それに、王族とは… どちらの王族なのでしょうか?」
「それは、現存する国では無いからです」
「と言う事は、今は存在しない国って事よね? そんな国、あったっけ?」
「実はあったんだよ。 …その国の名は、リルブライト王国」
「「「リルブライト王国!?」」」
三人の声が重なる。
ガゼルの言っていた王族の末裔とは、リルブライト王国のことだったのだ。
それは、この大陸の六つの国がまだ一つの国だった頃の話と言うことなのだが、それが今でも続いていると言うのだろうか。
「決して表舞台には出てこないからな。知らないのは無理も無いだろう。 …だが、事実存在し、国としての役割も果たしているんだ。それだけは覚えていて欲しい」
「つ、つまり、カイルはその後継者と言う事ですの? そして、このままだとリルブライト王国は滅亡してしまう… と?」
セシルの言葉がだんだんと震えてきて、目に涙が溜まり始めている。
今の話を聞く限り、カイルがベークライト王国へ婿入りしてしまうと、リルブライト王国が滅亡してしまい、国としての役割を果たすことができなくなってしまうのではないだろうか。
そして、それが大陸中に影響を及ぼしてしまうのだとしたら、セシルとカイルは結ばれてはいけないのではないか。
そんな風に悪い方向へと考えてしまっていた。
「それは違う。そもそもリルブライト王国には拠点と呼べる城が無い。だからカイルが継いだとしても、生活は何も変わらない。ベークライト王国へ婿入りしても、その責任の中にリルブライト王国の存続も加わるだけだ」
セシルの変化を感じ取ったガゼルが、フォローに入るがセシルはまだ上の空で話を聞き流しているようだ。
セレンもセシルの様子が気になっているが、この話は最後まで聞かないと判断ができないと思い、話を先へと進めるために問い掛けをする。
「拠点となるべき城も無いのに、国として存在って、できるものなの?」
「そうだな。表現が難しいんだが、 …世界の有事の際にリルブライト王国が動く、と言った方がいいか。簡単に言えば、世界の調停役だな」
世界の有事とは何だろう。
ガゼルの話では、ここ数百年で何度かリルブライト王国として有事を収めた事があるらしく、それは戦争だったり、外部からの侵略だったりといろいろだ。
各国の王もリルブライト王国の事は知っており、どのような内容だとしても、リルブライト王の命には従わなければならない決まりがあるそうだ。
「思い返してみれば、カイルがお父様に自己紹介した時に、ヴェルザークの名に反応してましたわ。まさか、自分の娘をくれと言うのが、王の中の王の息子だと想像すらしてませんでしたもの」
やっと戻ってきたセシルが、カイルの自己紹介の時に見せたベークライト王の反応について思い返す。
確かに、セシルの出したお願いの中には、カイルが来たら望みを叶えてやって欲しいと言ったし、それはベークライト王も容認していた。
だが、想定外だったのは、カイルがリルブライト王国の血を受け継いでいた、と言うところだろう。
「そうか。だからベークライト王国に婿入りするからヴェルザーク家を継がないと言った時に驚いてたのか。それにしても、リルブライト王国ねぇ… いまいちピンと来ないよ。しかもさぁ、仮にも王族の末裔が、何でこんな山の中に住んでるのさ?」
カイルの思っていることはある意味正しい。
この大陸の全てを掌握している王族が、こんな誰も来ないような山奥にひっそりと隠れるように暮らしている意味が分からない。
そう言うことがあるから、王族だと言われても、それを飲み込むことが難しいのだ。
「まぁ、それにもいろいろと事情があるのさ」
「そう。でも、それはどちらかと言えば、私の都合のため」
「母さんの? それって聞いても良いの?」
「まだダメ。この一連の騒動が終わって、カイルとセシルが跡継ぎの事を考えるようになったら話します。この話もとても大切な事なので、時が来たら私が直接呼び出します。だから、それまでは子作りを我慢するか、間違ってできないように注意しなさい。セレンも無駄に煽ってはいけませんよ?」
山の中に住んでる理由を聞こうと思ったのに、知らない内に子供の話になってしまった。しかも、理由も教えられず、子作りについては厳重注意のようだ。
普通なら、子作りの話になればすぐに真っ赤になり、うろたえるはずのセシルでさえ、真剣な顔をしていた。
実家に帰ってきてから驚きの連続だし、受け付けにくい情報ばかりが入ってきて、さすがに頭がいっぱいになってくる。
「さて、そろそろいい時間だろう。今日はこの辺にして、明日はどうする? ちょっと気持ちを切り替えたいよな? ってことで、まだ模擬線はするのか?」
「もちろんですわ!」
「当たり前じゃない!」
「…だってさ。明日も頼むよ」
「いい心がけです。明日も覚悟しなさい」
そして、お風呂に入り今日の疲れを落としてからベッドに入ると、心なしかセシルの表情が曇っているように見えた。
思い当たる事と言えば、ガゼルの言ったリルブライト王国の事だろう。
おそらくは、カイルがベークライト王国に入ることで、ガゼル達に何かしらの不都合が生じるのではないかと思っているに違いない。
心優しいセシルの事だから、自分を… いや、ベークライト王国を犠牲にし兼ねない。
本当に、相手のためなら自分の感情さえも押し殺してしまうんだと思った。
「…もっと、自分の欲を出しても良いと思うんだ」
「…え?」
思っていた事が不意に言葉として出てしまった。
セシルが顔を向けてくるが、瞳には涙が溜まり始めていた。
カイルは体ごとセシルの方に向き直って優しく抱きしめると、驚いて目を丸くするセシルの耳元に顔を近付け、安心させるように言葉を紡いだ。
「俺はセシルを愛している。そして、俺を受け入れてくれたベークライト国王にも感謝している。 …何より、セシルを育ててくれたベークライト王国が大事だし、好きになった。だから、俺はベークライト王国に入る。リルブライト王国の事は有事の時に動けば良い」
「カイル… でも、それではお父様達に対して不都合がありませんか?」
「セシル。俺は、いつ起こるか分からない有事に備えて、ベークライト王国を蔑ろにはしたくない」
「…本当に、それで良いんですの?」
「当り前だ。 …でも、その代わり、有事の際はセシルも力になってくれよ?」
「もちろんですわ。全ては貴方の仰せのままに…」
喜びに破顔し一筋の涙を流すと、セシルが抱き返してくれる。
二人は顔を見合わせて微笑むと、どちらからとも無く顔を寄せ、キスをすると明日に備えて眠りについた。
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カイル達が眠る1時間くらい前。
「さて、俺達も明日に備えて、十分な睡眠を取りますかねぇ」
「そうですね。明日もセレン達と模擬線なのです。楽しむためにもしっかりと休まないと」
「…ねぇ、お父さん、お母さん… 聞いても良い?」
「ん? どうした? セレン。 …ああ、あの事か」
「魔法の事ですね。ガゼルの話ですっかり忘れてました。すみません」
昨日、ガゼルはマリアがセレンの使う魔法を知っていると言った。
セレンはこの力のために村を追い出され、本当の家族を失ったのだ。
カイルたちと出会う前までは、この力は自分を蝕む呪いだと思っていたし、嫌っていた。
だが、カイル達と出会ったのも、ベークライト王国で父親ができた事も、ここで新しい両親ができた事も、全てこの力のおかげだ。
この事実も踏まえて、正直なところセレンは悩んでいた。
この力は、自分を不幸にしたのか、それとも本当の幸せをくれたのか。
この力を、これからも使い続けてもいいのか、分からなくなってしまったのだ。
だから、ガゼル達がこの魔法の事を知っていると聞いた時、セレンはこの機会を逃さず、しっかりと話を聞いた上で、自分の心に従って決めようと思った。
「さて、セレン。お前は自分の魔法の事をどこまで知ってるんだ?」
「? 何も知らないと思ってもらった方がいいと思うけど…」
「セレン、それは少し違う。私達は貴方がどれくらい理解しているかを確認した上で、足りないところを補い、間違いを訂正する。そうすれば、貴方は正しく魔法を理解します。それだけで威力は格段に上がるのです」
マリアに説明され、セレンは自分の魔法について話し始めた。
と言っても、セレンに魔法の知識があったわけではなく、この力を使うようになってから頭の中に浮かんできた内容だ。
だから、理解するよりも知識として覚えていたに過ぎなかった。
「私が知っているのは、この魔法は古代魔法と呼ばれていて、使う言語はルーン言語だと言う事。そして、二人に危険だと言われた魔法は、古代魔法でルーン言語を使うけど、ちょっと違った言葉だったわ。だけどシンボルを見れば頭に意味が流れ込んでくるの。それを組み合わせて使う。と言う事くらい… かな?」
「セレンの理解は正しい。この魔法はルーン魔法と言う。そして違うような言葉と言うのは古代ルーン魔法になる。 …もともとこの魔法は、リルブライト全土で信仰される女神だけが使う魔法で、人間には絶対に使えないものです」
「!! で、でも、私は人間だよ!? そ、それなのに… なんで?」
マリアの言葉に驚きを隠せないセレンが、信じられないと言った様子でマリアに縋りついた。
だが、セレンのこの行動もガゼルとマリアには予想できていた。
そして、次の言葉を言わなければいけないマリアは、セレンの目をじっと見て告げる。
「セレン。それは貴女の背中にある傷が原因です。 …その傷には付けた張本人の血が入っていて、その血が魔法を使えるようにしているのです。そのため、傷を持つ者はその傷が治らず、他にもいろいろな障害が起きます。 …例えば、成長の停止や異常な反応速度、空間を捻じ曲げたりなど。人によっては恩恵と捉える人もいますし、呪いと捉える人もいます」
「…い、異常な反応速度。 …そ、それは、セシルのこと...?」
「そうです。セシルにも同じような傷があり、あの子も同じなのです。 …いいですかセレン。望んだ事ではなくとも、貴女は大切なものと引き換えにその力を手に入れた。でも、その力は貴女に傷を付けた本人にも通用します。 …力をもっと昇華させなさい。そうすれば貴女の決意と共に、魔法はもっともっと強くなります」
マリアが遠回しに傷を付けた本人すらも攻撃できるのだから、もっと力を付けろと言う。
おそらく、マリアたちはセシルとセレンに傷を負わせた者を知っているのだろう。
でも、理由があってそれを言わないのだと言うことも理解できた。
だが、ひとつだけ何としても知りたい事があり、マリアに聞いてみる。
「でもさ。この傷は何で付けられたんだろう? 私じゃなきゃいけない理由があるの?」
「それは、傷を付けた本人にしか分からないことでしょう。ただ、私の知る限りでは、意味も無く傷は付けられません。セレンもセシルも、その相手にしてみれば、何かしらの理由があったに違いありません」
今夜だけでも、マリアから得た情報は計り知れないものばかりだった。
でも、おかげで謎が幾つか解けたのも事実だ。
まず、セレンの使う魔法は、本来は女神だけが使うものであって、セレンはこの傷のおかげでその魔法を使えること。
ただし、その代償としてセレンは成長が止まってしまったこと。
セレンと同じような傷を持つセシルは、異常なまでの反応速度を得たこと。
そして、この魔法を使えばセレンとセシルに傷を付けた相手に反撃できるけど、そのためにはもっと力を昇華させなければならないこと。
「お母さん。ありがとう。 …私、もっと頑張る!! もう、この魔法を使う事に迷いは無くなったわ」
「うん。その意気。貴女たちは頑張るほどに成長できる。私達も喜んで手を貸しましょう」
「そのための模擬戦だ。明日も厳しく行くから覚悟するんだぞ」
「うん! 頑張るよ! …でも、どうしてお母さんはこの魔法の事について、こんなに詳しいの?」
一瞬、マリアの顔に陰りが見えた。
それは、触れられたくない事なのだろう。
セレンはハッとしてマリアの手を握る。
「ゴメンね、お母さん。私、余計な事を聞いてしまったの?」
悲しそうにマリアの顔を覗き込むセレンを、マリアが小さく微笑んで抱き締める。
「いいえ、それは私がその魔法を使える人物をよく知っているからです。でも、それが誰なのかはまだ言えません。セレンたちがもう少し強くなったら教えます」
セレンも腕を伸ばしてマリアの体を抱き締めると、その胸に顔を埋める。
「分かった。 私… いえ、私達はもっと強くなる。お母さんやお父さんに心配かけないために。そして、何よりも自分のために」
「セレンはすでに、私の自慢の娘です。娘の頑張る姿に、お母さんは喜びを感じますよ」
「ウチもカイルしか子供がいなかったからな。マリアはよく女の子が欲しい、って言ってたんだよ。その望みが叶ったんだから、セレンも遠慮しないで甘えてやってくれ」
マリアが嬉しそうにセレンの頭を撫でている。
ガゼルとマリアが自分を娘だと言ってくれて、心から優しく接してくれる。
それだけでセレンの心が満たされた。
そして、頑張るための目的もできた。
セレンは思う。
自分もカイル達みたいに前に進もう。
そして、もっと強くなって絶対にあの二人を守ろう。
いつまでも後ろで守られてばかりじゃない。
隣に並んで一緒に歩くんだ。
そう心に誓うのだった。
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翌朝。
食事を終え、訓練場に姿を現す三人は、昨日とはまるで別人のように清々しい顔をしていた。
「へぇ、良い顔してるじゃないか」
「清々しい顔ですね。人間は迷いがなくなると、そんな顔になります」
やってきたガゼルとマリアが微笑んでいる。
カイル達も顔を見合わせると、同じように微笑んだ。
「じゃあ、早速やろうじゃないか。今日は昨日よりも厳しく行くぞ! …そらっ!!」
ガゼルが訓練開始の合図として、空に向かって剣を放る。
五人はそれに合わせて空を見る事も無く、相手を見据えたまま剣が落ちてくるのを待っている。
戦闘準備は既に完了しているため、飛び出すための合図を待つだけだった。
そして、剣が大地に突き刺さった。
「行くぞっ!!」
カイル達が一斉に動き出す。
二人で駆け出す前に、後ろのセレンが大きな声で魔法を放った。
「ソル・ユル!<太陽の弓よ!>『アポロン・レイ』」
セレンが左右の手の握り拳を前に突き出して右手だけを引き、弓を射るような動作で弓を引き絞り右手を離すと、輝く矢が無数に現れてガゼルを狙って次々と発射していく。
ガゼルは急速に襲来する光り輝く矢をギリギリで避けながら、カイル達から距離を取る。
「カイル! セシル! 私は二戦目を考えない! この一戦に全てを出し切る! そして絶対に勝ってみせる!!」
大きな声で叫ぶセレンの意思を感じたカイルとセシルは、お互いに見合い、頷くとセレンに笑顔を向けた。
「そうだな! この一戦に全てを賭けよう!!」
「出し惜しみは無しですわ!! 全開で行きますわよっ!!」
カイルとセシルが同時に駆け出し、ガゼルに狙いを定めて攻撃を開始すると、それを見たマリアが単身でセレンへと向かう。
「イス・ユル!<凍てつく弓よ!>『セルシウス・レイ』」
セレンは天に向かって矢を放つと、上空で炸裂し、氷結した矢が雨のように降り注ぐ。
それは、カイルとセシルを相手に戦うガゼルの集中力を削ぎ、セレンに向かうマリアの足止めにもなった。
それでもセレンはまだ止まらない。
「レイズ!<我が動きは駿馬の如く!>『スレイプニル』」
ひと際高く声を張り上げて魔法を唱えると、一気にガゼルへ向かって駆け出す。
それは、カイルと同じくらいの速度で、目で追うのがやっとだった。
そして、マリアの横を通り過ぎると、戦闘中のガゼルに向けて光の弓を引き絞る。
「ソル・ユル!<太陽の弓よ!>『アポロン・レイ』」
再び、大量の輝く矢が放たれ、ガゼルに襲い掛かる。
ガゼルも気付き、回避しようとするが、カイルとセシルに阻まれてうまく距離を取れない。
とっさに剣を捨て、拳に闘気を纏わせて素手で輝く矢を弾き始める。
ガゼルの剣はカイル達の使う剣よりも長めで、このような場合は取り回しができない。
そして、カイルとセシルの斬撃とセレンの古代ルーン魔法に対し、闘気を纏っているとは言え、全ての攻撃を素手で受け切るのは無理らしく、だんだんと拳が血にまみれていく。
最後の一本の矢をガゼルが受け切った瞬間、カイルとセシルが左右へと移動し、セレンのための道を開ける。
目の前が開けた状態のガゼルが見たのは、その正面で手を開いた状態のセレンと、ガゼルの周りに浮遊している金色に輝く球体だった。
「アース・スルス・ソル・ユル・フエ・カウン・ナウズル!<最高神オーディンの名において、太陽の根源たる灼熱の力をもち、我が敵を確実に傷付けよ!>『オーディン・ソード・レイ』」
セレンが魔法を放つと、ガゼルの周りにあった球体がセレンの声に反応し、大爆発を起こした。
それは連鎖反応するように、何度も繰り返し大爆発を起こし、そのたびに大きな衝撃波が辺りを舐めるように突き抜けていく。
その威力もすさまじく、辺りの木々を全て薙ぎ倒し、大地を激しく揺らしていたが、その中でも、カイルとセシルには影響が出ないあたりは、セレンの力量が伺える。
マリアも思わず足を止めてしまうと、その瞬間をセレンに狙われた。
「まだまだぁっ!! ソル・ユル!<太陽の弓よ!>『アポロン・レイ』」
その声に反応して、カイルとセシルもマリアに向かう。
昨日よりも、遥かに威力と鋭さを増した風と雷がマリアに襲い掛かる。
マリアはセレンの輝く矢を弾きながら、カイルとセシルの攻撃を受け始める。
セレンは再び高速移動を行いマリアの背後に回り込むと、両手持ちの剣を振りかぶるような形で両手を上に持ち上げて、一気にマリアの背中を目掛けて加速する。
マリアは輝く矢を弾き終えたが、カイルとセシルに退路を阻まれて逃げ場を失っている。
「アース・ウル・カウン・ナ… ウズ… っ!!<最高神オーディンの力を持ちて、我が敵への傷を… 強… 制…>」
そして、今まさにセレンが振りかぶった不可視の剣を振り下ろそうと言う時、セレンが豪快につまずいて転んでしまい、そのまま動かなくなった。
剣を合わせていたカイルとセシル、マリアは戦闘を中断し、顔を見合わせてセレンの元へと向かう。
セシルが顔をセレンに近付けると、
「…寝てるみたいですわ」
そして、コロンとセレンをひっくり返すと、鼻の上を擦りむいたセレンが、気持ちよさそうにいびきを掻いて、豪快に眠っていたのだった。
「まぁ、あれだけ派手に動きながら全開で魔法をぶち込んでたら、すぐに体力なんて無くなっちまうさ。 …こんな体だしな」
ガゼルが寝てるセレンに微笑みかけながら歩いてきた。
どうやら、セレンの魔法はかなり手加減されていたらしく、ガゼルもちょっと覚悟していたが、見た目とは裏腹に内部は守られていたらしい。
「あの状況でも手加減できるってのも凄いな」
「この子はルーン魔法の真髄に触れたのです。これからますます力も強くなっていくでしょう」
「カイルにセシル。お前らも良い動きだったぞ。昨日とは違って、今日はセレンを中心に戦闘を進められてたからな。 …とは言え、今日の功労者は間違いなくセレンだな」
「では、今夜の夕食はセレンの好物に決まりです」
それから数時間後。
鼻の上に絆創膏を貼ったセレンが鼻息を荒くしている。
「もー!! あと少しで大金星だったのにぃー!! くやしー!!!」
と、憤慨するセレンが「豪快な肉を食べたい」とリクエストしたので、みんなで狩りに来ていたのだが、すぐに大きな熊が出てきたのでそれを狩り、解体してると別の熊が出てきた。
運よく現れてくれた熊のおかげで食材は二体の熊となり、解体も早めに終わったから少し休憩をしていた。
「それにしても、今日のセレンは大活躍だったな」
「今回の魔法は全て新しい物でしたわ。いつの間に開発したんですの?」
「昨夜、二人がいちゃついてる時、私はお母さんから魔法の話を聞いてたのよ。その時に幾つか閃いたの」
「別に、俺とセシルはいつも通りだぞ? …で、高速移動もその時に閃いたのか」
「そう。 …私の使うこの魔法はルーン魔法って言うらしいの。 …それは…」
そして、セレンの口から昔話が語られた。
セレンは四方が海で囲まれた国、フェライト王国で生まれ育った。
首都からは遠く離れた山間にある百人にも満たない小さな村で、畑を耕して農作物を栽培し、家畜を飼育して肉や毛皮、乳製品などを作っていた。
村でそれらを取りまとめ、近くの村や町へ売りに行き、その売り上げを皆で分け合い細々と暮らしていた。
セレンの家は農作物を栽培しており、幼いながらも妹と一緒に両親の手伝いをして暮らしていた。
そして、セレンが十歳の時に、この後起こる悲劇のきっかけとなる事件が起きた。
それは、妹と一緒に村の教会へ行き、奉仕作業を終えた後、自宅へと戻る最中に起こったらしい。
「らしい」と言うのは、本人がそのことを覚えていないから。
泣きながら両親を呼びに来た妹に連れられて行った先では、道の真ん中でセレンが背中から大量の血を流して倒れていた。
すぐさま村の医者に診てもらったところ、命に別状は無いと言われた。
だが、背中の左の肩甲骨から右腹部にかけて、幅の広い三本の深い爪痕のようなものができており、この傷は治らないと言う事だった。
両親はセレンの無事を喜んだものの、本来なら成長期にあるはずのセレンは何年たっても成長しなかった。
だんだんと気味が悪くなってきた両親や村人は、セレンの事を腫物を扱うように接し、妹もまたセレンを怖がった。
友達と呼べる人間も数人に減り、次第にセレンは孤立して塞ぐようになった。
そして、運命とも呼べるセレンが十四歳の時。
住んでいた村が、どこから来たか分からない二十人くらいの武装した盗賊に襲われ、村人全員が一箇所に集められた。
盗賊は村にあるすべての金銭を要求したが、村長がそれを拒否したため、盗賊は村人を殺し始めた。
いわゆる公開処刑だ。
そして、いよいよセレンの友達の身に降りかかった時、事件が起きた。
友達が盗賊に髪を掴まれ、その胸に剣を突き立てられようとした時、盗賊の体が勢いよく燃え上がった。
耳をつんざくような断末魔の叫び声が辺り一面に響き、周りにいた他の盗賊も声を聞きつけて集まってきた。
そして、盗賊たちの見たものは、自身の周りに真紅の球体を無数に浮遊させ、ゆっくりと歩いてくる少女の姿だった。
セレンは、一体自分の身に何が起きているのか理解できないながらも、頭に浮かぶ魔法を唱えることで敵を倒せている事は認識できた。
― これなら、友達を守れる。村の皆を守れる。そうすれば、また昔のようにみんなが優しくしてくれる
そう信じて、盗賊団を一掃したセレンに待っていたもの…
それは村からの追放だった。
村を救ったはずのセレンが、何故か追放されることになった。
それは、盗賊の報復を恐れた村長の一言だった。
「戦う力は争いを招く。この村に争いは必要ない。すまないが、この村から出て行ってくれ」
その言葉に、誰も何も言わなかった。
セレンの友達も、妹も、 …両親さえも。
内心、みんなも報復が恐ろしかったのだ。
だから、みんなが目を逸らし、無言でセレンに出て行けと訴えていた。
この日、セレンは家族や友人、自身の故郷とも呼べる場所、その全てを失った。
心無い仕打ちに全てを奪われ、追い出されたのだ。
それから放浪は始めた。
涙を流しても誰も助けてはくれなかったし、何度も死にかけた。
幸い、病気にならなかったのは、この傷のおかげなのだろう。
それでも何人もの人に騙されたり裏切られたり。
やがて、誰も信用できなくなったところで、カイルとセシルに出会った。
「…と、まぁ、こんなところね。だから私はルーン魔法を使えるようになったの。そして、この魔法はもともと女神が使っていた魔法で、人間には使う事の出来ない力らしいのよ。でも、私に刻まれた傷がこの魔法を使えるようにしてくれた。 …おかげで私は今、新しい家族と心から信頼できる本当の仲間を手にすることができたのよ… って、あれ? ど、どうして私、泣いて…」
セレンは、話しながら自分が涙を流していることに気付いて慌ててしまうが、同じように涙を流すセシルに抱きしめられた。
「セレン。貴女は一人で本当に頑張ってきましたわ。これまでの苦労も悲しみも寂しさも、全ては今の幸せを掴むためだったと思いますの。私達はこれからずっと、ずっとずっと一緒ですわ。もう、絶対に貴女を離すものですか、私達と一緒に幸せになるんですもの」
「セシル… ありがとう。私、カイルとセシルに出会えて、本当に良かった。今まで、何度も死のうかと思ったけど、諦めないで頑張って生きてきて、本当に良かった…」
同じ傷を持つ者同士が、抱き締め合って悲しみを分かち合う。
カイルは以前、セシルとセレンは似ていると思ったが、今のこの光景を見て納得した。
「さぁ、そろそろ戻ろうか。あの二人も帰りが遅いと言ってる頃だろうからな」
「そうですわね」
「…うん。お腹空いたから、帰ろう」
その日の夕食時には、セレンが満面の笑みで肉を頬張っていた。
今日の訓練でスタミナを大量に使ったらしく、いつもの倍以上食べるセレンに、みんなが笑顔になっていた。
そして明日、本来の目的地に行くことを両親に伝えて、その日は終わりを告げた。
翌日、実家で三泊したカイル達は、ベークライト王国の冒険者ギルドの資料室でセシルの見つけた地図を頼りに、目的の場所へと行く準備をしていた。
「三日なんてあっと言う間だな。また、いつでも来いよ」
「セレン。貴女にはこれを上げます。 …これは、古代ルーン魔法を中心に書かれた本ですから、今の貴女にはちょうど良いでしょう。セシルは次に来た時に一緒に料理をしましょう。 …だから、私の可愛い娘たち。元気で行ってきなさい。そして、またここに帰ってくるのですよ?」
「お父様、お母様。いろいろとありがとうございました。 …じゃあ、いってきます」
「お父さん、お母さん。また、いっぱいお話ししようね。 …また来るよ」
「さて、じゃあ俺達は出発するよ。気が向いたらまた帰って来るから、父さん達も元気で」
そして、それぞれ抱き締め合って挨拶をすると、カイル達は実家を後にした。
セシルの発見した地図は、来る途中に立ち寄った村から、カイルの実家の反対方向に進むと見えてくるように書いてある。
「この地図… って言うか落書き? 信用しない訳じゃないけど、見つけるのは大変そうだよね」
「当然ですわ。大抵、こう言うのはいつも同じですもの。探しまくるのが基本ですのよ? すぐに見付かったら誰も苦労なんてしませんわ」
「はぁ… 結局はそう言うことなのね。で、最後はちゃんと見付かる、と。まぁ、それ絡みであることが前提条件なのかな?」
「何だ。分かってるじゃないか」
結局、セレンの言う通りで見付けるのは大変だと思うけど、行けと直感が言うんだから行かなければならない。
村からだいぶ進み、そろそろ夕暮れになってきたので、今夜の寝床を作り始めた。
夕食は、カイルの実家で下準備をしてきたので、割とまともな食事をすることができた。
食後、セレンはマリアからもらった本を真剣な顔で読んでいて、カイルとセシルはいつも通りいろいろな話をしていた。
そして、セシルとセレンが横になり、カイルも火の番をしながら体を休めて結構な時間が経った頃、カイルは人の気配を感じ取った。
(こんな時間に人の気配? 人数は… 五人くらいか)
念のために剣を腰に差し、立ち上がって視界に入るのを待つ。
すると、騎士の装備を纏った五人が現れた。
「お前、ここで何をしている? この先は通行止めなんだぞ? 怪しい奴には取り調べが必要なんだ。抵抗するなよ?」
「…そんな話、初めて聞いたな。村では言ってなかったぞ?」
カイルの言葉を切っ掛けに、辺りが緊張感に包まれる。
それにしても、この騎士らしき連中はどう見ても嘘くさい。
もちろん、騎士の中にもこのような奴もいるのだろうが、見た感じでは盗賊が騎士を殺し、その装備を奪って騎士になりすましているようにしか見えない。
「おいおい、しかも女連れかよ? お楽しみのとこ悪いがちょーっと来てもらおうかぁ?」
「断る。 …だいたい、こんな真夜中に所属も名乗らないってのは、偽者だと言ってるようなものだぞ?」
「そ、そんなの見れば分かるだろ? わ、我々はランサー部隊所属だ」
「へぇ、ランサー部隊ね。 …じゃあ、ストルス部隊長は元気にしてるのか?」
「も、もちろんだ。お元気でいらっしゃる」
「ここまでお約束通りだと、逆に笑えなくなるな。 …ランサー部隊の部隊長はフェルローレムさんだ。お前らみたいに馬鹿で間抜けな奴がランサー部隊にいる分け無いだろ? 少しは考えろよな?」
間違いを指摘され、怒りに震える五人は、作っていたであろう表情を崩し、誰が見ても悪人面へと変わる。
「やっとまともな顔になったじゃないか。その方がお似合いだぞ?」
「まったく、お前みたいなのが一番面倒くせぇんだよ」
「大人しく女を置いて死んじまいな。 …ガキも置いてけよ。そいつらは高く売れそうだからなぁ」
「さて、どうやって殺してやろうか…」
「女の前で八つ裂きにしてやろうぜ」
こっちが黙ってると、お決まりのように好き勝手言い始めた。
(セシルが聞いたら絶対にブチ切れするだろうな…)
この哀れな奴らに、怒りをあらわにするセシルが容易に想像でき、こいつらの末路を思うとさすがに可哀そうになってきた。
だが、どうやら表情に出てしまったらしく、盗賊が騒ぎだした。
「おいっ! テメェ! なに俺らを憐れむように見てやがんだ!」
「コイツ、自分がどうなるのか分かってねぇんじゃねぇか?」
寝てる人の近くでこんなにワイワイ騒ぎ出せば、当然…
「カイル。うるさい…」
「あれ? セレンが起きた?」
いつもなら、真っ先に起きてくるはずなのにと、セシルを見ると、気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てていた。
すると、寝起きの不機嫌そうなセレンが、盗賊たちを指差す。
「カイル。この人達は何?」
「ん? ああ、ただの盗賊だよ。騎士の真似事をして襲うつもりだったらしい。 セレンを売るって言ってたぞ?」
「はぁ!? 私を売る!? …へぇ、良い度胸してるじゃない。来なさいよ。 …来世で反省させてやる!」
現世でと言わない辺り、どうやらセレンもご立腹のようだ。
しかも、魔法力がどんどん上がっているのを見ると、手加減するつもりも無いらしい。
彼らは絡む相手を間違ったようだ。
「おい! 俺らを置いて勝手に話を進めてんじゃねぇぞ! 面倒だから、そこのチビもまとめて殺してやる!!」
状況を理解できない哀れな盗賊たちが、セレンに対して言ってはいけない言葉を発すると、セレンはカイルの前に立ち、前に出るなと言わんばかりに手を広げた。
「カイル。私、試したい事があるの。実験しても良いかしら?」
「もちろん良いぞ。もともと俺は手出しするつもりは無かったから好きにしてくれ」
セレンが更に一歩前に踏み出すと、盗賊たちを挑発する。
「さぁ、私が相手してあげるわ。まさか、子供相手に怖がってるんじゃないでしょうね?」
「ふ、ふざけるなよぉっ!! やっちまえ!!」
騎士の装備を身に纏った盗賊五人が、セレンを目掛けて突進してくる。
向こうは長剣とラウンドシールドを装備していて、フルプレートの鎧じゃないけど、それなりの重装備だ。
白兵戦になると手間が掛かりそうだが、セレンの魔法なら問題ないだろう。
セレンとの間合いが詰まったところでセレンが動き出した。
「…レイズ<我が動きは駿馬の如く!>『スレイプニル』」
静かに魔法を唱えると、セレンの体が薄く輝いた。
「ソル・ユル!<太陽の弓よ!>『アポロン・レイ』」
次に、弓を構える動作をすると、光り輝く弓が現れる。
それを引き絞り、一本の光輝く矢を打ち出すと、まずは正面の盗賊を射抜く。
そのまま前方へと凄まじい速さで駆け出し、残り四人の間を一気にすり抜ける。
一瞬の出来事に戸惑う盗賊は慌てて振り返るが、そこにセレンの姿を見付けられない。
既にセレンは次の攻撃ポイントへ移動しており、そこから更に一本の矢を放ち、もう一人も射抜いた。
そして、また盗賊の間を走り抜けると、方向転換と同時に二本放って二人を射抜く。
最後は残り一人を正面に、弓を構えて走り出そうとした瞬間、セレンは大きく目を見開いて叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待って、あーーっダメダメ、出ちゃう、出ちゃうよ! あーっ! もーっ! まだ早いってばぁー」
そう言ってセレンは足を止め、「仕方ないなぁ」と言った顔をすると、弓を大きく引き絞り、最後の一人目掛けて放った。
すると、夥しい数の光り輝く矢が出現し、盗賊を跡形も残らないほどの威力で射抜いていった。
「ふぅ、力を押えても三発が限度かぁー。 …もっと練習しなきゃだねー」
「何を実験してたんだ?」
「え? ああ、このルーン魔法で作り出した弓って、いつも一回で大量の矢を放つんだけどさ、それを数発ずつ打てれば弓も長い時間使えるんじゃないかなー… って思ったのよ」
「で、それが三発で終わったって事か」
「そうなのよねー。魔法力が勝手に溢れてきちゃったの。だからもっと制御できるように練習しないとね」
両手を胸の前でガッツポーズして意気込むセレンは、盗賊五人を一瞬にして消し飛ばしてしまった。
以前よりも強力な魔法が使えるようになり、更に高速移動もできるようになったセレンは、セシルに限りなく近づいていた。
「よぉーっし!! 頑張るぞぉーっ!!!」
セレンの決意の叫びと共に、空が白んでいき夜明けが訪れたのであった。
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