第41話 ガイル魔物と化す!
ガイルは大聖堂に帰って来た。
大聖堂の入り口には近衛兵が見張りに立っていてまごまごしていたら連れ出されるだろう。
ガイルは廊下を歩きながらも周りのみんなに怒りを振りまいた。
急いで執務室に入ると執務机を思いっきり叩いた。
「バーン!!くっそ!すべてフィジェルのせいだ。あいつがマイヤを聖女何かにすると言わなければ…アリシアを聖女として操っていられたのに…どうしてくれようか」
わなわな震える唇は力いっぱい噛みしめたせいで血がにじんでいる。
拳はギリギリ机にねじりこまれて指の関節からの血がにじんでいた。
でも、そんな痛みさえも今のガイルにはわからないほど興奮していて、椅子になど座ってはいられないとばかりにガイルは立ち上がると近衛兵の目をかすめて神殿にある洞窟に走り込んだ。
オルグの泉の前で憤怒し忌々しい議員たちをののしる。
しばらくするとオルグの泉がよどんで静かだった水面に波が立った。
ガイルが驚いたようにそれを見つめていると「バシャッ!」と音がして何かが飛び出した。
ドークだった。真っ黒い帽子と真っ黒いマント姿で泉の上でガイルを見つめている。耳まで裂けた口でニヤリと笑ってガイルを見た。
「お前、誰かが憎いのか?俺が協力してやろうか?」
「お前は…ドーク?ドークなのか?それではあの箱を?」
「ああ、持ってるぞ。ほら、これだろう?」
ドークはすぅっと手の平に広げた。中には暗黒の揺らぎが入っている。少し前に箱を神に奪われそうになり暗黒の揺らぎを偽物とすり替えたのだった。
ドークもまさかこんなことになるとは予想もしていなかったが嬉しそうにそれをガイルに見せる。
「ああ…だが、私が魔界の扉を開くことは出来ん」
「ああ、そうだな。でもこの玉は他にも使い道はあるんだ。自分の暗黒面の力を増幅することが出来る。いまのあんたがこれを使えば強大な力を手に入れられるぞ」
「強大な力…それがあれば私は国を支配できるのか?」
「ああ、暗黒の力はかなり大きいぞ。それだけに力があれば国の一つや二ついくらでも支配できる」
ガイルの目が輝いた。
迷っていた気持ちを振り切ったのかドークの近付くと手の上にあった暗黒の揺らぎをつかみ取った。
「それを胸に押し付けてみろ。身体に玉が取り込まれる。そうすればお前はもう敵なしだ。ほら」
ドークは恐ろし気な口で笑う。
ガイルが手に取った真っ黒い玉はさらに黒い光を増して行く。
ガイルはそれを胸に押し付けると黒々とした玉がぱぁっとひかった。
そしてガイルの胸に吸い込まれて行く。
「ああ…力が…腹の底から力が沸き上がって来る」
「そうだろう?あんたはもう魔界の力を纏ったんだ。何も恐れるものはない」
それだけ言うとドークは満足した顔をしてすっと消えた。
ガイルの身体はミシミシ音を立てて変化していった。
筋肉は隆起して体は大きく変化した。白銀の髪は振り乱れ瞳は血が滾ったように毒々しい朱色に染まって行く。
そして大きな巨体になって行った。
まがまがしいそれはもう人ではなかった。ガイルは2メートル以上もある巨人と化していた。
ガイルはまずアリシアを取り戻すことを考えた。アリシアさえ戻ってくればすべて元通りではないかと考えたのだ。
「アリシア、待ってろ。必ずお前を取り戻す!!」
***
ここはアラーナ国の王宮。
アリシアは午後から孤児院に訪れるため着替えの途中だった。
結婚して王妃となってもアリシアは街の診療所に王妃ということを隠して手伝いに行っている。
でも、まだまだ困っている人はたくさんいると気づいた。
アリシアは、王妃となって出来ることを考えた。自分の立場ならアラーナ国の医療施設や教育施設をもっと改善できると思った。
だから今日は街の孤児院の視察に出かける事になっていた。
「ありしーあ…」
アリシアの部屋にいきなり転移魔法で現れたのはグレンだった。
「もう、グレンったら、驚くじゃない」
「なんだ。どこか行くのか?」
「今日は午後から孤児院に行くって言ったでしょ。もう、グレン私、今着替え中なのよ。見ないでよ」
アリシアは下着姿のままで胸を腕で隠す。
「いいじゃないか。いつだって見てるんだし…どれ、アリシアの弱い所…」
グレンは遠慮なんしにアリシアの下着の隙間から手を入れて来る。
「ぺチッ!」アリシアがグレンの手を叩く。
「なんだよ」グレンがすねた声を出す。
「もう、こんな所を見られたらどうするのよ!グレンったらいつも転移魔法でいきなり現れるんだから…いい。もう転移魔法で私の前に現れるのは禁止よ!」
グレンは甘えるようにアリシアを見つめる。
アリシアはその目に弱い。いつだってグレンに甘えられたら何でも許してしまう。
もう、ほんとにどっちが年上何だかわからないわ。でも、今日こそはっきり言わなきゃ!
そんなアリシアの気持ちを知ってかさらにグレンが甘い言葉を連発する。
「そんな。いいじゃないか。俺だって忙しいんだ。なかなかアリシアに会えなくて寂しんだ。少し時間が空いた時部屋まで歩いてたんじゃ時間がもったいないだろう?」
アリシアの胸はきゅんきゅんしてしまう。
”くぅ…こんなの反則よ。今日は絶対に負けないわ。”脳内でそんな自分に叱咤するとアリシアは唇を引き結ぶとグレンの胸に指先を突きつける。
「だめよ。この前だって治療中の所に転移して来たじゃない。診療所の患者さんが驚いてたわ。いいグレン。今から転移魔法は禁止します」
「え~、そんなぁ、いいだろう?ありしあ~」
グレンは身体をかがめるとまるで子犬のようにかわいい目でアリシアを下から見上げる。
「もう、だめです。さあ、出て行って。支度が出来ないじゃない。あっ、転移は禁止よ!」
「もう、わかったよ。気を付けて行けよ。もし何かあったらすぐに俺を呼べ」
「ええ、でも転移は禁止よ」
グレンはすっかりしょげて部屋から出て行った。
アリシアは馬車で孤児院を訪れた。もちろん護衛の騎士が付いている。
孤児院は教会の中に会ってシスターたちが面倒を見ている。アリシアは食堂や子供たちの部屋など色々な場所を案内され子供たちと一緒に遊んですごした。
少しばかりクッキーを焼いてきたがあっという間になくなった。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。子供たちにねだられて遊んでいたのでもう辺りは暗くなり始めていた。
「アリシア様そろそろお戻りになりませんと…」
「ええ、そうね。今日は朔の日、すぐに暗くなるわね。急ぎましょう」
アリシアは急いで王宮に戻り始めた。
孤児院のある教会は丘の上に会って帰りは人通りのほとんどない道だった。
下り坂でいきなり馬車の周りが騒がしくなった。
「どうしたの?」
アリシアは馬車の覗き窓から外を見た。
護衛の騎士が大きな黒い塊とぶつかり合っている。馬に乗った騎士は瞬時に馬から引きずり落される。
「ぅぎゃー」悲鳴が遠くに掻き消えて行く。
「王妃を守れ!」他の騎士の声が響くが騎士たちは次々に悲鳴を上げて倒されて行く。
ついに御車が振り落とされたのか悲鳴が聞こえ馬車が暴走を始めた。
「きゃー、グレン。グレン助けて…」
アリシアはグレンに助けを求める。
あっ、そうだった。私、グレンに転移魔法使っちゃだめだって言ったわ。
辺りはすでに暗くなり始めて太陽はもう西に隠れて行く。
日はとっぷり暮れてしまうと今日は朔の日。グレンが子犬になってしまう日だった。
もう、どうしたらいの。この化け物はなに?こんなの見た事もない。魔獣でもない感じるのは背筋がゾクリとするほどの恐怖だ。
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